最後に、その場には美佐代とさっき後ずさりしていた女子生徒の2人だけが残った。辺りには生暖かい血のにおいが強烈に立ち込めている。依然として津名の体からは血が流れ出てきていた。恐らく、心臓がないものだから動脈に圧力がかからず、吹き出すような出血が出来ないのであろう。頭を粉砕された女子生徒の首からは、しばらく血が吹き出ていたが、それも止まった。残り1人の女子生徒はその現状に耐えられなくなって胃の中のものをほぼ全て吐き出した。
幻魔の力が強くなっている、精霊はそう思った。恐らく、美佐代の中の得体の知れない苦しみが力へと変貌を遂げたのであろう。幻魔の姿は元の悪魔より醜く、そしてはるかにおぞましくなっている。その体には地獄が映し出されているようだ。
美佐代の中から完全な姿で現れた幻魔は、闇の口から漆黒の炎を吐いて辺り一面を焼き払った。ただ、そこに生き残っていた女子生徒に関しては、顔も分からないほどにひどいやけどを負わせていた。声帯も焼かれ、声も出なくなったその女子生徒は、全く生きていた頃の面影を残していなかった。彼女の体からはやがて大量の膿が血液と共に吹き出した。幻魔の吐く炎は怨念の固まり、普通の炎とは全くといっていいほど違う。残った1人の女子生徒はまもなく命尽きた。
さすがにここまで騒ぎが大きくなると、校舎内にいた教師と生徒の一部が駆けつけてきた。しかし、駆けつけてきたところで目の前のその惨劇をどう捉えていいのか分からなかった。さらに美佐代の体からは見たこともない奴が飛び出している。その場の誰もが地獄の覇者と見間違えた。その内、幻魔は暴走し始めた。恐らく、本当に暴走しているのは美佐代の心、ひどいいじめを受けていたにもかかわらず、誰も助けてくれない、話すら聞いてもらえない。信じていた親にも相手にされない。愛情というものを美佐代は失った。信頼できるものも失った。死の淵に立たされたこともある。そんな美佐代の心は我慢の限界を超え、ついには怒り狂い始めた。それが今、実体となって、幻魔となって美佐代から飛び出してきた。美佐代の荒れた心に入り込むことは悪魔にとってはたやすいことだった。
暴走を続ける美佐代の幻魔は、駆けつけてきた教師と生徒たちを校舎の壁にぶつけて押しつぶした。もう美佐代自身にも止められない。