慶「…光希?」
一瞬何が起きたのか、慶太郎はわからなかった。
後ろにバランスを崩し、とっさに床についた右肘がなんとか慶太郎の上体を支えている。
そして、分かるのは、支えているのは自分の体だけじゃないこと。
慶「…光希らしくないやん…突然人に飛び付くなんて」
光希は慶太郎の胸に顔を埋めたまま、何も言わない。
慶太郎は左手で光希の頭に触れた。
慶「…なんで…泣いてんの?」
光「泣いてない」
顔を埋めたまま光希は首を横に振った。
慶「…泣いてるやろ」
また首を横に振る光希。
光「…慶太郎」
慶「…やっぱり泣いてるやん」
ようやく顔を上げた光希に慶太郎は微笑み、体を起こす。
光「慶太郎?」
慶「ん?」
光「すき」
慶太郎は光希のまっすぐな瞳を見つめたまま、動きを止めた。
光「好きやねん、慶太郎が」
もう一度、ゆっくり繰り返す光希。
慶「…」
光「…」
慶「あ…ごめん…俺…」
光希は一瞬で心が深く沈むのを感じた。
光「あーごめん、うち何言ってるんやろ。ごめん、今のは忘れて。…うちもう帰るな、今日は…ありがとう」
沈んだ気持ちを隠すように早口で言って、部屋を出た。