「ええ」
エナンは緊張した面持ちで小さく頷くと、剣を鞘から抜いた。
ザック、ダリルもそれに続いて剣を抜く。しかしその表情は対照的で、ダリルは高揚したような顔を、ザックはガチガチに緊張した顔をしていた。
「ザック、周りを見なさい」
メディナは指先をザックの目の高さに上げて、大きく円を描いた。
「あ…はい!」
ザックは軽く深呼吸をしながら、ゆっくりと周りを見渡した。
メディナは優雅な足取りで剣の舞を披露しながら、
「緊張は剣先を鈍らせ、判断をも鈍らせるもの。しかしそれが全く無いと剣の始動を遅らせ、判断をも遅らせる。緊張を上手く飼い慣らせば自らの力になる。覚えておきなさい」
と、教えた。
「は、はい!」
ザックは目を輝かせて、何度も頷いた。
「…なあ、エナン。俺、あの人と全力で戦ってみてえ…」
ダリルはその様子を見つめながら、隣に立つエナンに小さな声で頼んだ。
「…はは…」
エナンは苦笑いを浮かべて、頭を掻いた。
―これは困りましたね…二人が彼女の虜になってしまいましたか…。
そう考える彼の腕は震えていた。
それは恐怖が原因ではなく、自分の剣が彼女にどれほど通用するのかといういわゆる「純粋な興味」からくるものであった。
―私さえもここまで魅了するとは…。
「さ、やりましょうか」
メディナは剣を構ると、鋭い目で三人を見つめた。