チンゲンサイ。<42>

麻呂  2010-06-08投稿
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意外にも本橋は、

ユキエの言葉を受けても、表情一つ変えずに、あっさりと要求に応じた。



『山田さん。

生徒達に何をおっしゃるおつもりなのかは分かりませんが、

親が前へ出る事によって、必ずしも解決に結び付くとは限りませんし、

もしも、うちのクラスにイジメがあるとしたら、

現状の悪化さえ考えられますよ。

本当に、それでいいとおっしゃるのなら、どうぞお話しください。』



俺達の意志は固かった――



本橋の後ろに付き、俺とユキエは、ユウのクラスへ向かうべく、職員室を後にした。


廊下を歩く俺達に、生徒達は、それほど興味を示さなかったが、


本橋が、ひとたび教室のドアを開けると、


生徒達の視線は、一気に俺とユキエに集中した。



『起立!!』



ほぼ同時に、学級委員らしい女子生徒の声が響き渡る。



『ほっほっほ。

みなさん、おはようございます。

今日のホームルームが、いつもと少し違うのは、

お客様がいらっしゃる事ですね。

はい。いつもどおりに始めますよ。』



しかし、この本橋という教師は、いかにもクセのありそうな男だ。


見た目は、生徒にナメられているダメ教師といった感じなのだが、


どうも、そうでもなさそうだ。


その本橋の話している最中に感じた事だが、


このクラスの雰囲気は異様だった。


生徒達の目は、まるで腐った魚の様に見えたのだ。


全く若さと活気が感じられないのだ。


社会問題化した学級崩壊という言葉が流行った時代は、


すでに“一昔前”となってしまったのか。


いや、おかしいのは多分、このクラスだけだ。



そう思えたのは何故か――



みな、口をつぐんで、大人しく席に着いているのだが、


それは、優秀な生徒達の揃ったクラスだからというよりは、

まるで、何者かに操られている様に、


言葉を発する事を禁じられているかの様に見えたのだ。



一体ソレは何だ――


本橋の話が終わりに近付くにつれ、


俺は、話すタイミングが、いつユキエに回ってくるかと、ハラハラしていた。



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