一番遠い記憶は……
蟻の行列をしゃがんで眺めているアタシの背中…朝露に濡れた地面にお互いを確認しながら動く昆虫にアタシは夢中だった
「全く!何処に行ったんだ!10数える間に出てこないとショウチしないよ!ヒトーツ!」
母のつんざくやうな怒鳴り声がビリビリ空気を震わせた
(戻らなくちゃまた叩かれちゃう)
頭ではわかっているが身体が動かない
「佐智子ちゃんお部屋戻らなくちゃ…幼稚園遅れますよ」
遊びに来ていた祖母がアタシを優しく立ち上がらせ、団地に誘導してくれた。
ドアを開けるなり、鞄やら帽子やら靴が飛んできて母の怒りが伝わる
「ごめんなさい」
アタシは転がるように中に入りました。正座して謝りました
(上手に謝れたかしら?)
下から伺うように母を見上げます。母の顔が一瞬緩んだように見えたので…
「おかあさん!」
と抱きつこうと立ち上がるアタシでしたが
「気持ちわるい!あっちいけ!」
と手を振り払われたので、アタシの両手は所在なさげになりました。祖母が暖かく包んでくれましたが、
母はアタシを愛していないのではないか?と感じた一番古い哀しい記憶です。
…アタシは母を許せるのだろうか