流狼−時の彷徨い人−No.55

水無月密  2010-06-09投稿
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「シャンバラの狂気によって造られたミュータント、それがワタシの化け物じみた能力の正体だ。
 ……ワタシは、人ではないのだ」
 ノアは無表情にそう語った。
 その口調はいつも通りに淡々としていたが、かえってそれが彼女の美しい容貌に、悲しみの影をおとして見えた。


「……それほどの仕打ちをうけながら、なぜノア殿はシャンバラを見捨てなかったのですか?
 それほどの苛酷な運命をしいた祖国にすら情けをかけ、憐れんだからこそ何百年にもわたり護ってきたのでしょう。
 さらには十年前、貴女は見ず知らずの私にすら救いの手を差し延べてくれた。
 情けを知る貴女は、人以外の何者でもありませんよ」
 そういって半次郎は微笑んだ。


 ノアは口元を僅かにゆるめた。
 半次郎が無尽蔵にもつ、慈悲の心がおかしかったのだ。

 彼女の長い人生の中でも、半次郎ほどに他の者を思いやり、心を砕く人間には出会ったことはなかった。

 その性格ゆえに彼の存在は危ういのであり、また時代の変革者たる存在でありえたのである。


 さらに半次郎は続ける。
「シャンバラの人達だって、ノア殿に感謝しているはずです。
 国が間違わずに存続しているのは、貴女のおかげだと」

 半次郎がそうつげるとノアは静かに目をとじ、そして奥歯を噛み締めた。
「……シャンバラはハクによって滅ぼされた。
 今では僅かに生き残った者が国の遺産を護っているだけで、もはや国と呼べる形態ではない」


 愕然とする半次郎は、反射的にその理由を問い掛けていた。
「何故ハク殿が……
 貴女達は志しを同じくしていたのではなかったのですか?」

「ハクが豹変した理由はワタシにもわからぬ。
 だが、地上からの干渉を防ぐ任についていたヤツが不意にもどってきた時、その目は狂気に満ち、颯爽としていたヤツのオーヴは陰に傾いて見る影もなくなっていた」


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