「ふうん。機械人形が俺に意見すんのかよ」
くすくす。俺は馬鹿にしたように笑った。
目の前には、見目麗しい、生きた人形がいる。
名を、 「唖沙羅」。あさら、と読むらしい。
女のような名だが、男だ。すらりと伸びた高い背丈、美しい銀髪。蒼い瞳。寒くなるような美しい顔立ち…。
人間にはない、完璧な美貌。
黒いスーツに身を包んだ、自称俺の護り手。
『…いいえ、朱緋(あかひ)さま…。私は、お傍に仕えし人形…。傍を離れては、お守りできませぬ。どうか、唖沙羅を置いて行かないでくださいませ』
深々と頭を下げる人形。
人と全く変わらないけれど、その仕種の中にぎこちなさが見え隠れする。
「…トイレや風呂まで一緒かよ。プライバシーもへったくれもねえな」
ったく親父もろくなことしねえ。
『…機械人形には、何の感情もありませぬ。…お傍に控えさせてくださいませ』
何の感情も無い人形。
死ぬことの無い…。
…愛している、…
「護りなんていらねーよ。俺は『朱神』なんか継がね―。こんな薄気味悪い家、絶えちまえばいい…」
人形に命を与える?馬鹿馬鹿しい。
『…椿様がお嫌いなのですか。…憎んでいるのですか。私を、創ったあの方が』
ああ。大嫌いだね。
「こんな気味悪いもん造る人間なんざ、理解出来ねーよ。機械人形?人形を人間にする?しかも、命を与えて?アハハ!馬鹿じゃねーか?」
出来たのはこんなプログラム通りに動く、文字通りのヒトガタ。
『人形は、嫌いですか。…でも、壊れぬ限り、死にません。…けして、独りには、しませんから。』
だから、傍に置いて。
「死にたがりに、護り手なんかつけて何になる」
『…死に、ません。私が、護ります…。それが、私の存在理由です。』
神の創造物ではない私の。
「…唖沙羅。お前…」
『…生きるのに、理由など無いと。…あの方は言いました。だから、…私は貴方を、護りたいのです。』