「今日の花火大会、あいつと行くのか?」
帰り道、家までの距離をお兄ちゃんの後ろに付いて歩く。
「うん。初音ちゃんとは毎年行ってるでしょ?それに他に誘ってくれる様な人なんていないもん」
風に揺れるお兄ちゃんの髪の毛を見ながら、ちょっと笑ってしまう。
歩く度にひょこひょこ髪の毛が跳ねる。
「他にって…。田中とか斎藤とか…声掛けて来なかったか?」
「田中君に斎藤君…?別に何も?…何かあったの?」
お兄ちゃんはクラスメートの男子の名前を挙げたきり、黙り込む。
「ねぇ、お兄ちゃん。何?」
もう一度尋ねてみたけれど、お兄ちゃんは「いや」とかぶりを振る。
「何でもない。…それより“初音”。あいつ浴衣がどうとか騒いでなかったか?」
「ほら」と手を差し出される。
ドキンと心臓が跳ね上がる。
「早くこいよ」とお兄ちゃんが微笑む。
それは、小さな頃から変わらない光景。
変わらない貴方の優しさ。
いつも歩くのが遅い、私の左手に自分の右手を重ねて、隣を歩いてくれる。
きゅっとその手を握りしめて、私はお兄ちゃんを見上げる。
「うん。夏だし、お祭りだし、花火大会だし?とにかく浴衣着るぞーって」
くすくす笑いながら、初音ちゃんの顔を思い出す。
「あいつもな〜、一度こうと決めたら、テコでも動かない奴だもんな…」
一緒に微笑み合う。
お兄ちゃんも初音ちゃんとは幼なじみになるから、よく初音ちゃんの性格を知っていたりする。
「…あのさ」
お兄ちゃんが立ち止まる。
「…俺も一緒に行ってもいいかな?」
正直びっくりした。
今まで、お兄ちゃんが こんなふうに「一緒に行く」なんて言ったコトが無かったから。
毎年私が誘っても、何かと「用事が…」とか「友達と…」とか言って、ここ数年お兄ちゃんと花火大会はおろか、他のお祭りさえ一緒に行けなかったから。
「うん…うんっ!お兄ちゃん、一緒に行こ!」
私はかなり浮かれていた。
それが、私とお兄ちゃんの関係を大きく崩してしまうきっかけになることも知らないで………。