白地にピンクの小花と花束、レースのリボン模様。
今年、夏前に新調した浴衣。
誰よりも先に、お兄ちゃんに観て欲しかった。
「ねぇ、ママ?大丈夫かな?私、変じゃない?どうかな?」
くるりと一回りして、ママに確かめる。
「大丈夫よ。さっすがママの子♪可愛いわ♪」
にこにこしながらママも満足げ。
「雪月花ちゃん、色白だから本当によく似合ってるわ。この柄にして正解ね♪お兄ちゃんってば、本当に雪月花ちゃんのコトよくわかってるわ〜…感心しちゃうわねぇ」
そう、この浴衣を新しく買う時、あれこれとうるさく注文を付けたのはお兄ちゃん。
私は最初、紺色に牡丹の花の浴衣を買おうとした。
すると、お兄ちゃんが「似合わないから止めろ」と今の浴衣を何着もある中から時間を掛けて選び出し、「絶対コレ」と譲らず、結局この浴衣を買い取った。
「さ、後は髪を上げてアップにして…少しだけメイクもする?」
ママはちょっとだけ、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「いいの!?」
くすくす笑いながら、ママが「ちょっとだけね」と自分のメイク道具をポーチから出した。
「雪月花ちゃんのお肌はまだつやつやだから、本当はしなくてもいいんだけど…やっぱり少しは…ね?」
「ありがとっママ!」
思わず小さな子供の様に、ママに抱き着いた。
それからママが薄付きにメイクをしてくれる。
「雪月花ちゃん、唇。ん‥ぱってして?」
ママに言われた様に、唇を動かす。
「…うん、そう。うんっ綺麗ね♪」
満足そうなママに、手鏡を渡してもらう。
そっと覗き込むとそこには、頬を染めて少しだけ大人な顔をした私が映っていた。
「リップはピンクのグロスだけよ。若いって良いわよねぇ。自然な唇の色にグロスだけで充分なんて。羨ましいわぁ…」
そんなコトを言いながら、ママはメイク道具を片付け始める。
「ほら、お兄ちゃん待ってるわよ?行ってお披露目してあげて?…パパ、まだ帰ってこないみたいだし。ふふっ。お兄ちゃんに先越されたーって悔しがるわよぉ」
「うん」と返事をして、私はママの部屋を飛び出した。
お兄ちゃんは何て言ってくれるだろう?
お兄ちゃんの選んでくれた浴衣を着た私。
少しでも、綺麗と思ってくれたらいいのに…。