着替えを終えた私は、すぐにお兄ちゃんの待っているリビングに向かった。
「お兄ちゃん、お待たせっ」
そう言ってお兄ちゃんの前に出る。
お兄ちゃんは私を見てびっくりした様に暫く固まり、それから少し頬を赤くして目を逸らし。
「…すっげー似合ってる……」
そう、呟いた。
そんな事言われるとは思いもしなかった私は、あまりの不意打ちにぼぼっと顔が赤く染まる。
「や‥やだなぁ、お兄ちゃん。そんなお世辞言っちゃって…。冗談ならもうちょっと凝った演出してよね〜…」
あはは…と笑ってみせる。
私の心臓の鼓動は、どくんどくんと痛い位波打って落ち着かない。
「似合ってる…」そう呟いたお兄ちゃんの声が、私の耳から離れていかない……。
−−どうしよう…。顔、上げられないよ……
その時、パタパタとスリッパの音。
ママがリビングに入ってきた。
「あら。雪月花ちゃんもお兄ちゃんもまだ出てなかったの?時間、大丈夫?初音ちゃんと待ち合わせてるって言ってなかった?」
ママが私達を見て時計を指差す。
「「…あ…」」
私もお兄ちゃんも、そんなママの言葉に思い出す。
−−固まってる場合じゃなかったよ……
お兄ちゃんはソファーから身体を起こすと、私を見た。
「遅れたらあいつうるさいからな…。行くぞ、雪月花」
外に出ると、慣れない下駄に悪戦苦闘する私に、お兄ちゃんはいつも通り「ん」と右手を差し出す。
私はその手に掴まろうとして、一瞬躊躇する。
−−どうしよう……
さっきから落ち着きのない、私の心臓。
手を繋いだだけでも、伝わるんじゃないかと思うくらい。
そんな私を黙って見ているお兄ちゃん。
いつまでも手を取らない私に、いぶかしげな表情を見せて「どうした?」と問い掛けてくる。
「な、何でもないよっ」
ダメ…。
普段通りにしてないと。
まだドキドキしている心音を気にしながらも、お兄ちゃんの手に私の左手を重ねた。
……カラコロと下駄の音が、外の空気を震わせて高く低く響いていく。
隣には私の手を引いて歩くお兄ちゃん。
そっと見上げる私の瞳に気付いて、「ん?」と私を伺い見る。
「なんでもない」「そうか?」そんなたった、一言二言がすごく気恥ずかしくて、なんだか泣きたくなった。