『かんぱーい!』
香ねぇは レモンチューハイ。私は徹夜でイラスト課題を仕上げたいので ウーロン茶で。
『はぁ!?』
『香ねぇさん、今日早いね。いつも11時まわるのに。』
『まーね。たまには。あっお兄さん、おつまみ追加いい?』
香ねぇさんは 声優科に所属していながら バイトを三つ掛け持ちしている。
飲食店のフロアー係とコールセンター。あとたまに日雇いの仕事も入れたり。もともと社員として働いていた職場だそうで、時間に融通がきくそうだ。
隣に住んでいても早朝と深夜に足跡を聞くくらいで 時間に余裕があると ウサ晴らしに 飲み会へ誘われる。
5歳年上の26歳。
でも今回は ウサ晴らしとは様子が違った。
『頼みたいことがあってさ。』
頼みごと?珍しい。
『今あたし、小劇団で見習いしててさ。といっても二ヶ月前に入ったばっかりで、受付とか券を配って客集めしてるんだけど。
で今度200人位入る劇場でね、演劇するんだぁ。』
『小劇団?いろいろしてるんだね。』
『声優って結局舞台役者だからね。声を演じる前に、体で表現出来ないと。本業はむしろそっちかも。劇団員は普通のことだよ。』
『そうなんだ。知らなかったなぁ!』
『で、本題なんだけど、一週間でイラスト6枚仕上げてくれない?その劇団で今度使うんだ。』
『6枚?!そんなに!』
『なによ。毎日イラスト描いてるんでしょ。6枚くらい直ぐじゃない』
『だって、色もつけるんでしょ?課題だって毎日二、三枚あるし。』
『なに弱気になってるのよ。私でも半日有れば二枚くらい仕上げるわよ。はい。これ、台本と人物設定と。。』
『ちょっと待ってよ。そんな勝手に!そんな急に!』
『お礼はするから。これ、その劇団の観賞券』
『お礼って。。これ?』
『ぜったい。面白い!!』
強引過ぎ。。有り得ない。