『みなさんの、ご両親にとっても、
みなさんの存在は、かけがえのない宝物だと思います。
私にとっても息子、ユウは、かけがえのない宝物です。
みなさんの身に、何か危険を感じたら、
きっと、ご両親は、ご自分の体をなげうってでも、
みなさんを守ろうとすると思います。
親というのはそういうものです。
例えば、
みなさんのご両親は、みなさんが誰かに、“キモイ”とか“死ね”とか言われた事を知ったら、
どんなお気持ちになるでしょう。
多分、ご両親は、
キモイ子を産んだ覚えはないし、
死ねと言われるような子を産んだ覚えもないと、
悲しいお気持ちになるはずです。
言葉は、時として、暴力と同じくらい、人の心を傷つけます。
そして、
人を傷つけた人は、人に傷つけられた人よりも、
心に深い傷を負う事にもなるのです。
そういう方を、
私は知っています。
息子の事は、厳しくしつけてきたつもりですが、
もし今後、息子がみなさんに、ご迷惑をお掛けするような事がございましたら、
こちらの、担任の本橋先生を通してでもかまいませんし、
私どもに、直接言って頂いてもかまいません。
その際は、家で息子を厳しく指導したいと思っております。
まとまりのない話で、お聞き苦しい点は、どうぞお許しください。
今回、こういう場を設けてくださった本橋先生と、
お話を聞いてくださったクラスメイトのみなさま、
本当にありがとうございました。』
ユキエが話している間中、
生徒達の目は、
ずっと、
灰色だった―――\r
本橋に一礼をして俺達は、教室を後にした訳だが、
俺にとって、今日という日は、
今後の人生において、
妻のじょうぜつぶりと、その度胸を初めて知った、
記念の1日となる事は、間違いないだろう―――