欲望という名のゲーム?3

矢口 沙緒  2010-06-20投稿
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かなり大きな屋敷にもかかわらずそれが小さく見えるのは、この広大な敷地のせいだろう。

周囲を円形の森に囲まれた敷地の中央に、その白い洋館は建っていた。
とても日本の一部とは思えないような、まるで写真で見たスイスの山奥にでも案内されたような奇妙な感じだった。

長い車寄せの道を、ゆっくりとマイクロバスは進んだ。
道の周囲は花畑のように春の花が咲き乱れている。
洋館の中央にある大きなドアの前でマイクロバスが止まる。
中から五人の乗客が次々と出てきた。
気分が悪かった友子はしばらく深呼吸をしていたが、やがて徐々に血色が戻ってきた。
「大丈夫か?」
喜久雄が心配そうに聞く。
「ええ、もう大丈夫よ。
気分が楽になったわ」
友子はそう言い、また深呼吸を始めた。

狭いバスの中に閉じ込められていた時間が長かったので、五人はしばらくノビをしたり深呼吸をしたりしていた。
澄んだ空気は多分に緑の香りを含み、普段は都会の薄汚れたガスばかり吸っている五人にとって、なにか体の中を洗浄される思いがした。

マイクロバスがクラクションを鳴らした。
五人が振り向くと、運転手は五人分の荷物をすっかり降ろし終わっていて、バスはUターンまで済まし、もと来た道を帰る態勢をとっていた。
「じゃ、これで…」
運転手が言う。
「あら、帰っちゃうの?」
深雪が聞く。
「ええ、あとでまた迎えに来ますから、それじゃ…」
「おい、あとっていつだ?」
明彦が聞く。
「はい、一週間後という約束になっています」
「なに!
一週間後だと!
おい、ちょっと…」
明彦は運転手を呼び止めようとして叫んだが、しかしバスはすでに走り出していて、あっという間にもと来た木々のトンネルの中へと消えて行った。
バスの姿が見えなくなってしまうと、急にあたりが静まり返ったようで、なにか不安なものが奥底から込み上げてきた。
五人とも長く都会で生活してきたせいか、都会の雑踏はいわば聞き慣れたBGMになっている。
しかし、ここにはそれがない。
静寂の中で、時折聞こえる小鳥の声。
その静けさがたまらなく不安にさせた。
そして文明の欠片のようなバスの姿がその視界から消えた今、彼らは見知らぬ土地で迷子になった子供の心境と同じ思いをしていた。

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