子供のセカイ。177

アンヌ  2010-06-22投稿
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* * *

同じ朝の光が、ラディスパークの最北端に位置する強制労働施設にも差し込んでいた。
足枷を外されたジーナは、朝露の下りた草地をブーツの底で踏んで立ち上がると、前向きに縛り直された腕をそのままに、大きく背を反らせて伸びをした。
その表情に疲れの色はあまりない。唯一、切れた口端に固まった血がこびりついているが、それでも、とても昨日治安部隊を相手に大立ち回りし、牢で一晩を過ごした者の顔には見えなかった。周りを囲んだ治安部隊の青年達は、そんなジーナの屈強さに、思わず互いに顔を見合わせて苦笑していた。
続いて地下牢へ続く石階段から登ってきた王子は、やつれた表情で、体もふらふらしていた。王子も同様に、足枷のみが外され、腕を前向きに拘束されている。ジーナが塗った薬のお陰で、怪我はだいぶましな状態になっていたが、目の上のあざは相変わらず痛々しい。それに、流石に体の疲れまでは取れていないようだ。
地上へ出た途端、虚ろな目でゆらりと倒れかけた王子の体を、とっさにジーナは肩で支えた。
「平気か?」
「……ごめん。大丈夫、だよ。」
王子はジーナの肩から身を起こすと、紙のように白い顔で頼りなく笑った。あまり大丈夫のようには見えなかったが、ジーナは何も言わずに頷いた。その時、王子に続いて、階段から治安部隊のリーダーであるハントが出てきた。
ハントは寝不足なのか、しきりに目頭を摘んだり、ボサボサの髪を掻きむしったりしている。仲間の若者にちょっかいをかけられても、面倒そうに眉を寄せるだけで相手にしようとしない。
王子は目を閉じ、朝の新鮮な大気を取り込むように大きく深呼吸していた。それを横目に見ながら、ジーナは静かに思案した。――美香と耕太はどうなったのだろう。昨日からずっと考えていることだが、答えの見えない問いに、不安は増すばかりだった。時間が経つにつれ、ますます胸の内の靄が広がっていくようで、気分が悪い。王子も、そのことをかなり気に病んでいる様子だった。
(覇王に捕まっていないとしても、ラディスパークはただでさえ危険な場所だ。無茶をしていないといいが……。)
「何を考えている?」
不意に話し掛けられ、ジーナはバッと顔を上げた。治安部隊の若者の一人、長い黒髪の青年ルキが、疑ぐり深そうな切れ長の目でジーナを睨んでいた。

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