普段当たり前と思っていること
何気なく過ごしてきた毎日
それはある日突然
かけがえのないものになる
あまりに近すぎて気付かなかった
あまりに単調すぎて見落としていた
そんな幸せ−−−
「ただいまー」
もちろん誰の返事もない。
ふぅ…と大きくため息をついて
隼人は部屋の明かりをつけた。
高校を卒業し
家族の元を離れて1年
一人暮らしにもようやく慣れて来た。
しかしながら隼人は
一人暮らしをすると決めた時から
ある不安を拭い去れずにいた−−−−
カバンを部屋の隅にほうり出し
シャワーを浴びて部屋着に着替え
録画してあったバラエティー番組を見はじめる。
時刻は夜8時を回っていた。
その時
ピンポーン
インターホンが鳴った。
「はい?」
隼人は部屋着のまま玄関に向かった。
「お兄ちゃん」
「瑠奈!?」
隼人はドアの向こうの声にあからさまに驚いた。
瑠奈−隼人の3歳下の妹。今年で高校1年生。
小さい頃からいわゆる「お兄ちゃん子」で
いつも隼人の側を離れたがらなかった。
隼人もまたそんな瑠奈に
目一杯の愛情を注いできた。
そして彼女こそが隼人の不安材料でもあった。
「来ちゃった。開けてよー」
隼人がドアを開けると瑠奈は心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「お前来るときはちゃんと連絡しろって言っただろ…」
「ごめーん…でも…何か急に会いたくなっちゃって…みたいな」
瑠奈はまた照れ臭そうに笑う。
瑠奈が隼人の家に来たのは初めてではない。むしろ週に1度、
少なくとも月に1度は必ず隼人を訪ねてきていた。
隼人はそんな瑠奈に対し、もし来るときは必ず連絡するよう言い聞かせた。
別に見られて困るものがあるわけではなかったが
隼人は瑠奈が来た時くらいはきちんともてなしたいと思っていた。
瑠奈もそれまでは隼人の言い付けを守り、来る前には隼人に連絡をしていた。
なのに今日は突然、連絡もなくやってきた。
一体何があったんだろう?
隼人はとりあえず瑠奈を部屋にあげることにした。
続く