「まあ…とりあえず、あがれよ」
「お邪魔しまーす」
隼人の言葉に被せるようにそう言うと、瑠奈はさっさと部屋にあがった。
「うわっ、お兄ちゃん散らかしすぎだよー。しょうがないなぁもう…」
瑠奈は隼人の部屋を見るなりてきぱきと片付けを始めた。
「自分でやるから大丈夫だよ。いきなり来るから片付ける暇なかったんだよ」
隼人が瑠奈を押し止めて部屋を片付ける。
ようやく2人くつろげるスペースが出来た。
「で?なんで急に来たの?」
飲み物をテーブルに並べ、隼人は真っすぐ瑠奈を見て尋ねた。
「うん。なんかいきなり会いたくなっちゃったんだ…」
瑠奈の表情はどこか悲しげだった。隼人は胸を衝かれる思いだった。
こんな瑠奈の表情を見るのは初めてだった。
それに…
「瑠奈…どうした?顔色悪いぞ?」
具合でも悪いのだろうか。瑠奈の顔色は少し青ざめているように思えた。
「え…?そ、そうかな?」
瑠奈は慌てたように笑顔を作る。明らかにおかしい。
「何があったんだ?急に来てみたり…会いたかったとか言ってみたり」
「いいじゃん!私はお兄ちゃんの妹なんだから、会いたい時に会いに来たっていいでしょ!?」
今度はすごい勢いで怒りはじめた。隼人は何も言えなくなった。
「あ…ごめんね、急に怒ったりして…でも…」
「いいよ。まあ詳しい話しは後にして…腹減ってないか?何か作るよ」
隼人はそう言うと立ち上がってキッチンへ向かった。
瑠奈が来た時は手料理を振る舞う。
隼人が自分自身で決めたルールだ。
「うん!メニューはお兄ちゃんに任せるよ。って言いたいとこだけど…」
瑠奈は隼人の方を見てにっこりと微笑んだ。
「オムライス食べたいな!お兄ちゃん特製のオムライス」
「へぇー…瑠奈からリクエストするって珍しいな」
隼人達の家は両親が共働きなのでいつも留守がちだった。
だから隼人は瑠奈の親がわりのような役割を担っていた。
瑠奈が隼人に懐いているのもそのためだった。
瑠奈は昔から隼人の作るオムライスが大好物だった。
リクエストを受けた隼人は嬉しい反面、どことなく不安な思いを抱き始めていた。
続く