「もともとはフランスの富豪が、日本に長期滞在するために造られた屋敷だったのですが、その富豪が手放したものを雅則様が手に入れられたのです。
ここからご覧になってお分かりのとおり、ニ階には左右に各三部屋づつ、計六部屋の客室がございます。
便宜上、部屋には番号が打ってあります。
右側の三部屋が一号室、ニ号室、三号室、そして左側が四号室、五号室、六号室となっています。
その内の六号室は、現在私が使用させていただいてます。
ですから、残りの五部屋を皆様方に使っていただく事になりますが、とりあえず年齢順に一号室を明彦様、ニ号室を喜久雄様ご夫妻、三号室を深雪様、そして四号室を孝子様ということで準備してございますので、そちらの方でおくつろぎ下さい。
部屋にはバス・トイレも完備してございます。
決して不自由をなさるような事はないと思いますよ」
「ちょっと待ってくれ」
明彦がたまりかねて言った。
「鹿島とかいったな。
我々がここに一週間も滞在する事になるってのは、本当なのか?」
「最長で一週間、場合によってはもっと短くなる事もございます」
「冗談じゃないわ!」
深雪が呆れたという声を上げた。
「こんなお化け屋敷みたいな所に、一週間もいられるわけないじゃない。
あたしは忙しいのよ!」
「僕も仕事がある」
喜久雄が続く。
妻の友子が相槌を打つ。
孝子だけが何も言わずにいた。
彼女はむしろこの屋敷に強い興味を示したらしく、一週間の滞在にも不満はないようだった。
鹿島は口々に文句を言う四人を困った様子もなく、むしろ楽しそうに見ていたが、やがて両手を上げ、分かりましたというようなジェスチャーをした。
「皆様がおっしゃりたい事は、よく分かります。
皆様がそれぞれお忙しい方だという事も十分に承知しております。
しかし、今この屋敷を立ち去るという事は、雅則様の遺された遺産を放棄するという事になりますが…」
その途端に、四人はピタリと口を閉ざした。
「そうなのです。
皆様にここに滞在していただく事も、遺産相続の条件の一つなのです」