内外に投げ分け、ツーストライクまでは簡単にとれた。
だが石塚は、最後の一つを容易にはとらせてはくれない。
元々石塚は空振りの少ない選手であり、今試合においても未だ一つの空振りもしていなかった。
さらにいえば、石塚自身が橘華バッテリとの相性の良さを感じていた。
彼はこの試合、配球コースの読みがことごとく当たるのである。
その石塚が厄介がったのは、八雲の球威と制球力だった。
重い球を微妙に外してコーナーに投げ分けられては、打っても凡打にしかならない。
かといって見送れば、際どいコースだけにストライクをとられかねないのである。
際どいコースはカットして凌ぎ、あまい球をひたすら待つ石塚。
そしてフルカウントでむかえた八球目、球数がかさむのを嫌った哲哉は三振をすて、打たせてとる戦術に切り替える。
哲哉のサインに小さく頷き、振りかぶる八雲。
要求は真ん中低め、九速の球だった。
八雲の投球フォームは右のオーバースローだが、右膝が地につくほどに上体をしずめてリリースするため、ローボールを投げれば地を這うように白球が突き進む。
その百四十二キロの直球がホームベースに差し掛かった時、石塚は迷わず打ちにいった。
甘い球ではなかったが、哲哉ならホームランになりにくい低めの球で勝負にくると読んでいた彼は、好機であると判断したからだ。
低めにコントロールされた重い球を、石塚は巧みにバットで捕らえて弾き返した。
打球は八雲の足元をぬけ、センター前へと駆け抜ける。
が、この打球に遊撃手の水谷が飛びついた。
すんでの所で捕球した水谷は、軽やかな身のこなしで一塁へと送球する。
そして、大澤の捕球と同時に塁審が右手をあげ、アウトをコールした。
ファインプレーに沸く観客席。
一塁を駆け抜けた石塚は、己の不運に天を仰いだ。
今のプレー、少しでも打球が速ければぬけていただろうし、少しでも遅ければ彼はセーフになっていたのだから。