出発の前夜、やはり瑠奈は隼人を応援する言葉をかけた。
「一人暮らし大変そうだけど…お兄ちゃんなら大丈夫だよね。頑張ってね!」
兄の新しい生活を祝福する言葉。優しい笑顔…
隼人は新生活に若干の不安があったが、瑠奈の言葉と笑顔が大きな支えになると感じた。
しかし…隼人は見てしまった。
廊下の窓から夜空を眺めながら、瑠奈が泣いているのを…
「お兄ちゃん…嫌だよ…ずっと一緒だと思ってたのに…瑠奈のこと置いてかないでよ…」
両親よりも多くの時間を隼人と共有してきた瑠奈にとって、
明日から隼人が側にいなくなるという事実は堪え難いほど悲しく、つらいことだった。
隼人は心臓にナイフが刺さったような痛みを覚えた。
抱きしめてあげたかった。「泣かないで」と言ってあげたかった。
だがそのようなことをしてしまうと、瑠奈をさらに悲しませてしまうだろう。
別れをさらに実感させてしまうから…
隼人は唇を噛み締めながら瑠奈の近くから去り、堪えていた涙をそっと流した。
出発の日、家族全員が隼人を見送ってくれた。
「隼人。もっと逞しくなって帰って来いよ。」
「体には気をつけて、頑張ってね。」
父と母が励ましてくれる。
「うん。父さん、母さん、ありがとう。苦労ばっかかけて、ごめん…」
「謝るなよ。父さんこそ忙しくてなかなか構ってやれなくて…すまなかった。」
「母さんも…一番側にいてあげなきゃならないときに、一緒にいてあげられなくてごめんね…」
両親の謝る姿に、隼人は少々落ち着かない気分だった。
それでも、常に子供達のことを気にかけてくれていたんだ、と思うと嬉しかった。
「いいんだよ。父さんにも母さんにもすごく感謝してる。今まで育ててくれて、ありがとう。」
隼人は笑った。両親も安堵の笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん…」
瑠奈はやはり悲しげな表情で隼人を見上げる。
「瑠奈…父さんと母さんに、迷惑かけないようにね。」
「…うん。お兄ちゃん…また…帰ってきてね。」
「たまには、遊びに来なよ。」
隼人はそう言うと、新しい住まいの合い鍵を瑠奈に手渡した。
続く