最近何かがおかしいと感じる。
吹く風、照る月、晴れ渡る空、清んだ水、温もりの炎、豊饒の大地、静寂の闇、万物を公平に見守る太陽。
春に産まれ、夏に生き、秋に老い、冬に死ぬ。
世界は通常なんらかわりないように動いているように思うが、何やら異変を感じとる者がいた。
「出生率が下がっていると?」
低く通る声が目の前にいる男に問う。
「はい、陛下・・・ここ数年わずかではありますが、低下の兆しがみえまする」
声に萎縮した様子が感じとれる。
「近年、不作の年が続いておりまする。中には体を弱くするものもいるようで、それだけではないと思うのですが・・」
陛下と呼ばれた男は腰を椅子に深く座り直す。
片手をあげ目の前の男に向け手をふる。
「わかった、もうさがってよい」
一礼し男は静かに部屋をでる。
残された部屋に一人、陛下と呼ばれた男はうつむく
「あれはまことか?」
誰に聞かせるわけでもなく、呟いた。
最近おかしいと思う。
高い塔の窓から顔を出し、眼下にひろがる町並みをみつめる。
昼間なら市や、働く者の声で騒がしいけども、最近はなんかシンと静まりかえっているように思う。
若かった。窓から顔を出すのは青年とよぶには早すぎで、少年とよぶには幼さもなかった。
彼は王子であった。額には赤いルビーの飾りがみえる。
第一王子の証。
コンコン
木扉の叩かれる音が耳に届く。
「誰か?」
王子が木扉を見つめて問う。
「王子、父上が、陛下がお呼びでございます。お部屋にてお待ちだそうでございます」
王付きの女官だろう。
「わかりました。参りますとお伝えください」
王子が木扉のむこうにいる女官に声をかけた。
布が擦れる音がする。足音と共に気配が遠のく。
”父がおよびか・・なんだろう”
最後にもう一度町を見つめてドアをしめる。
コンコン
「父上、参りました。入ります」
返事をまたずに入る。
中央にしつらえられた椅子に王は腰掛けていた。両手の平を組みそのうえに顎をのせている。
何かあったか?
王子は上目に王を見据え思った。