「お父さんとお母さんには悪いけど…小さい頃の記憶って大体お兄ちゃんなんだよね…」
「なんか…素直に喜べないよね。」
「そうだね。」
兄妹は両親に愛されていなかったわけではなく、むしろ普段一緒にいられない分、休みの日は目一杯甘えさせてくれた。
全員が一緒にいる時間は少なくても、家族の愛の深さと絆の強さはどの家庭よりも強い。隼人も瑠奈もそう思っている。
それでも隼人にとっては瑠奈と、瑠奈にとっても隼人と過ごした時間の方が圧倒的に長い。
兄妹が子供の頃の記憶で真っ先に浮かぶのは、いつも兄が、妹が側にいる光景。
「ねえ、覚えてる?すごい雨降ってた夜のこと…」
隼人の手を握りながら瑠奈が聞いた。
「すごい雨の夜…」
隼人は記憶の糸を探った。−−−
夜になって急に荒れて来た天候。窓を叩く雨音に隼人は眠れずにいた。
時折雷が鳴り、窓から強い光が差し込んだ。
その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「お兄ちゃん」
不安そうに震える瑠奈の声。隼人はドアを開けた。
「瑠奈。」
「お兄ちゃん…私…」
瑠奈の怯えたような表情を見て隼人は頷いた。言葉にしなくても言いたいことが分かった。
「うん。大丈夫。今晩一緒に寝よう。」
「ありがとう…」
瑠奈はホッとしたような微笑みを浮かべ、隼人の手を握った。
「お兄ちゃん…ピカってなったら…ぎゅってしてね。」
ベッドに潜り込み、隼人のパジャマを掴んで離さない瑠奈に隼人は優しく笑いかけた。
「OK。瑠奈はお兄ちゃんがしっかり守るから。だから…安心して。」
「ありがとう…」
その夜、隼人はずっと瑠奈を抱きしめていた。
瑠奈もこの上なく幸せそうな表情で、静かな寝息をたてていた−−−
「あの日のお兄ちゃん…今までで一番頼もしかったな…」
「瑠奈、泣き虫だからね。俺が側にいてあげないと。」
「あはは。なんかさっきから失礼だなー。」
瑠奈は頬を膨らませた。
「ほんとに…お兄ちゃんには一生かかっても返せないくらいたくさん愛情貰っちゃった。今日、ちょっとだけど恩返しできてよかった…」
瑠奈は再び隼人の手を握り、言った。
「お兄ちゃん、お願いがあるの」
続く