「お願い?」
「うん…」
瑠奈は隼人の手を力強く握った。
隼人はその強さに少し驚いたが、瑠奈の顔を真剣に見つめて、言葉を待った。
「家に帰ってきたら…私がプレゼントした手紙と似顔絵、持ってって。それで…ずっとお兄ちゃんの近くに置いといてほしい…」
瑠奈は隼人を見上げて懇願した。
「瑠奈…」
「私のこと、絶対忘れないって証にしてほしいんだ。そのオルゴールも、指輪も…」
まるでもう2度と会えなくなるかのような言い方だ。
隼人は瑠奈の顔をじっと見つめた。瑠奈も負けじと隼人の目を覗き込む。
瑠奈の表情は何かとてつもない意志を秘めているように見えた。
「私も、このネックレス…お兄ちゃんのこと忘れないって証にするから。だから…お願い!お兄ちゃん。」
今まで瑠奈がこんなに必死に懇願することはなかった。
隼人はしばらく何も言わなかったが、やがて瑠奈の肩をつかんで口を開いた。
「何言ってんだよ…俺が瑠奈のこと忘れるわけないだろ…」
「私の誕生日のこと、覚えてなかったくせに…」
瑠奈の目がまた潤んだ。
「それは…」
「私にとっては…忘れるなんて有り得ない大切な思い出だったのに…」
隼人は何も言い返せなかった。
瑠奈との思い出を大切にしてこなかった事への後悔と、自分自身への怒り…
「ごめん…ごめんな、瑠奈…」
隼人は瑠奈を力強く抱きしめた。
「もっと、瑠奈との思い出、大切にしなきゃならなかったのに…俺…」
「お兄ちゃん…」
「約束する…瑠奈から貰った大切なもの、絶対手離さない…瑠奈も…」
「うん…ありがとう。お兄ちゃん…苦しい…」
いつの間にかきつく抱きしめていた腕を、隼人は慌てて離した。
瑠奈は涙を拭って微笑んだ。
「いきなりこんなワガママ言ってごめんね。でも、旅行に行ってお土産も作ったし…いい機会だから…私の思い、伝えたくて…」
「そうだったんだ…ありがとう。瑠奈が来てくれて良かったよ…」
「どういたしまして。」
兄妹は幸せそうに笑った。
最初は何事かと思ったが、隼人は安心した。
思い出は、これからいくらでも作れる。そしてそれを、ずっと大切にして行こうと、隼人は決心した。
続く