二人はしばらくいつも通りの他愛もない会話を楽しんだ。
からかいあったり励ましあったり。
何気ないやり取りでも、隼人はいつも以上に幸せを感じていた。
瑠奈が側にいること、離れていても仲良くやっていることがいつの間にか当たり前になっていた。
しかし、これほどまでに強い絆で繋がれることは決して当たり前のことではない。
まして家族という…兄妹という絆は何にも増して貴重だ。
瑠奈と兄妹で良かった。隼人は心からそう思っていた。
自分を慕ってくれる、大切なことを教えてくれる瑠奈に感謝していた。
自分と瑠奈を兄妹としてこの世に送り出し、育ててくれた両親にも感謝していた。
瑠奈…これからもずっと大切にするよ…
隼人は誓った。
「どうしたの?お兄ちゃん。」
「ん?あぁ…ちょっと考え事してた。」
瑠奈の言葉に隼人は慌てたように笑った。
「えー何なに?」
瑠奈が興味津々な様子で身を乗り出して聞いてくる。
「なんでもないよ。」
「えー!けちー!」
隼人は自分の思いを口に出すのが恥ずかしかった。ここまできてどうして素直になれないんだろうとも思った。
ふと時計を見ると、時刻は夜11時を回ろうとしていた。
「うわ…もうこんな時間じゃん…」
「あ、ほんとだ。」
「そろそろ帰った方がいいんじゃないか?父さんも母さんも帰ってきてるだろ。」
「うん…でも…」
瑠奈の表情は浮かなかった。
「なんだよ。また遊びに来ればいいじゃん。待ってるからさ。」
「違うの!…その…なんていうか…」
「瑠奈?」
そういえば…瑠奈が何故今日、突然やってきたのか、隼人にはまだ分からなかった。
「ずっと…お兄ちゃんと一緒にいたいな…なんて。」
瑠奈は恥ずかしそうに笑って隼人に寄り添った。
「瑠奈…」
隼人はにっこり微笑み、愛しい妹の頭を撫でた。
その時…隼人の携帯が鳴った。
「父さんだ…」
隼人は電話に出た。
「もしもし?隼人か?」
「うん。どうしたの?」
「明日、帰って来れるか?」
「何があったの?」
次の瞬間、父は震える声で信じられない言葉を放った。
「瑠奈が…事故で死んだ…」
続く