「死んだ…?」
隼人には意味が分からなかった。
自分は今まで瑠奈と過ごしてきた。今も瑠奈が目の前にいる。
「でも…瑠奈は…」
「死んでしまった…あんなに元気だったのに…」
父の声の調子から、嘘をついているようには思えなかった。
でも…だとしたら、今俺の目の前にいるのは瑠奈ではないのか?
そんなはずはない。さっきまで互いに改めて思い出を共有し、より一層絆を深めたのだから。
隼人は瑠奈の方を見た。
瑠奈はそっと微笑んだ。隼人にはその微笑みが、何故かとても怖く思えた。
父の話によると、瑠奈は旅行先で山道を走るツアーのバスに乗っていた。
しばらくして前方から猛スピードで暴走する対向車が現れ、バスの運転手がハンドルを急に切って避けようとしたものの
ハンドル操作を誤って崖から転落。運転手と乗客の大半が命を落とした。
そして瑠奈も…病院に運ばれて出来る限りの治療が成されたが、脳に致命傷を負っていた。
「明日、瑠奈が家に帰ってくる…皆で…瑠奈を見送ってあげよう。」
父は泣いていた。普段涙を見せない父が。しかし隼人にはまだ信じられなかった。
「嘘だろ…瑠奈、今俺のとこにいるよ…?」
「…何を言ってるんだ。」
一体何が正しいのか…隼人は混乱していた。
「…分かった。明日、帰るよ。」
「待ってるからな。」
電話を切ると、隼人は瑠奈を真っすぐに見た。
瑠奈は子供のように純粋な笑顔になった。
「えへへっ。バレちゃったー。」
「瑠奈…」
「お父さんが言ってたこと、ほんとだよ。私…死んじゃったん…だ…」
隼人は胸の底から凍えるような寂しさが込み上げて来るのを覚えた。
「でも…そんな急に言われても…瑠奈、今日俺と喋ったじゃん!オムライスも食べたし、お土産だって…」
隼人はうなだれた。悲しみなのか、戸惑いなのか、わけも分からず…本人から聞いた「死」という真実…
信じたくなかった。悪夢だと思いたかった。でも隼人は確かに感じた。瑠奈の笑顔、「お兄ちゃん」と慕わしく自分を呼ぶ声、力強く手を握られた感触…
そんな隼人に、瑠奈は優しく抱き着いてきた。
続く