「瑠奈…」
隼人は精一杯笑顔を作って瑠奈に話しかけた。
「お兄ちゃんの妹に産まれてきてくれて…本当にありがとう。」
「お兄ちゃんも…私のお兄ちゃんでいてくれてありがとう。」
瑠奈はそう言うと目を閉じて隼人の頬に顔を近づけ、そこにそっと唇を付けた。
「瑠奈…」
「お兄ちゃん…これからもずっとずっと、私はお兄ちゃんのこと見てるよ。夢の中でお話だって出来る。だから…悲しまないでね?」
「うん。瑠奈が側にいてくれるなら…心強いよ。」
隼人の言葉に瑠奈は安堵の笑みを浮かべた。そして…みるみる宙に溶けていく。
「瑠奈…?」
「もう、行かなきゃ…」
瑠奈の笑顔も、もううっすらとしか見えない。
「明日、お父さんとお母さんの所に帰るから…お兄ちゃんも絶対来てね。」
「うん…」
「もし生まれ変わっても、私達、ずっと仲良しでいようね…ありがとう、お兄ちゃん…大好きだよ…」
その言葉と微笑みを残して…瑠奈は…消えた。
時計の針は12時を回り、日付が変わっていた。
隼人はその場に倒れ込んだ。悲しみを通り越してしまったのか、涙は出てこなかった。
ただ、心にぽっかりと大きな穴が開いてしまった。頭の中も空っぽだ。
隼人はそのまま、眠りに落ちてしまった。
翌日、隼人は実家に急いだ。
「隼人…」
父と母が出迎えてくれた。どちらも神妙な面持ちだ。母の目から涙が流れている。
「父さん、母さん…」
「瑠奈は…部屋にいるよ…」
両親に先導され、隼人は部屋に入った。
「瑠奈…」
瑠奈の体がそこにあった。その顔は安らかだった。ただ眠っているだけのように…
だが、瑠奈の姿を目の当たりにして、隼人はようやく現実を受け入れた。
瑠奈はもう決して目覚めない。笑わない。泣かない。怒らない…
「あんなに元気だったのに…どうして…」
泣き崩れる母を、父が支える。
隼人はしばらく黙っていたが、やがて両親を見て口を開いた。
「…ごめん。しばらく、瑠奈と二人きりにしてほしいんだ…」
「分かった…瑠奈も…きっと喜ぶだろう。な、母さん…」
「ええ…」
両親が部屋を出ると、隼人は瑠奈の側に座った。
続く