「こうしてわざわざみんなに集まってもらったのには、実は訳があるのだよ。
この私の体はすっかり癌におかされていてね。
医者が長くてもあと三ヶ月の命だと保証してくれたよ。
もっとも、このビデオを見ている諸君達は、その事も、そしてその結果もすでに承知しているはずだがね。
体調が悪いので病院に行った時には、もう打つ手がなかったのだよ。
よって、今の私の唯一の薬はこれだけだ」
そう言ってワイングラスを振ってみせた。
孝子の顔が悲しそうに曇った。
「孝子、そんな顔をしないでくれ」
テレビの中の雅則の顔も、悲しそうに曇る。
「人は生まれ、そして死んでゆくものなのだよ。
人の一生はシャボン玉のようなものさ。
この世に生まれた瞬間から、消え去る運命を背負っているのだよ。
だからシャボン玉は美しい。
儚いからこそ、価値がある。
…分かるね、孝子」
孝子がコクリとうなずいた。
幻と現在が、不思議なやり取りをした。
「さて、そろそろ本題に入るとしよう」
雅則の顔に、再び笑顔が戻った。
「今も言ったとおり、私の命はあと三ヶ月なのだよ。
そこで、どうしても考えなくてはいけないのが、私が父から譲り受けた財産についてだ。
私はこの重荷をやっと降ろす事が出来るよ。
いくら父の意志とはいえ、それは私にとって重すぎる十字架だったよ。
諸君達も私の事を恨んだと思う。
その気持ちも、よく分かるつもりだ。
そこで私の死後、そのような不公平がおきないような遺産相続の方法を取らなくてはならないと思う。
それには二つの方法が考えられる。
まず、財産を均等に四人に分けてしまう方法。
これが最も正しい最善の方法なのだろうが、…しかし同時に、最もつまらない方法とも言える。
そこでだ、私はあえて第二の案を実行する事にした。
つまり、財産を独り占め出来るチャンスを、四人に平等に与えるという方法だ」