かけがえのないもの 19

デフレーター  2010-06-27投稿
閲覧数[453] 良い投票[0] 悪い投票[0]

隼人は瑠奈の顔を見た。

本当にただ眠っているだけのようだ…いつも通りの、可愛らしい顔。

隼人は微笑みながら瑠奈に話しかけた。

「瑠奈…いつまで寝てるんだよ。遅刻するぞ…」

生前、そうしてきたように、隼人は瑠奈を起こそうとした。

「今日から新学期だろ…早く起きろよ…瑠奈…」

隼人の目には涙が浮かんでいる。

「全くねぼすけなんだから…起きろよ…瑠奈…なあ…起きてくれよ…!」

隼人の目は、込み上げて来るものを堪えきれなかった。大粒の涙が流れる。

「なあ…目を覚ましてくれよ!…起きて…『お兄ちゃんおはよう』って言ってくれよ…!瑠奈…!」

隼人は声をあげて泣いた。涙が溢れるに任せて泣きじゃくった。

もう決して応えない、瑠奈の体を揺さぶりながら。

「これから…もっとたくさん思い出作っていこうと思ってたのに…瑠奈のこと、ずっと大事にしようって誓ったのに…なんで先にいっちゃうんだよ!!」

瑠奈との様々な思い出が、走馬灯のように隼人の頭を巡った。

瑠奈の一番の魅力である笑顔。「お兄ちゃん、遊ぼう」そう言って甘える声。時々見せる寂しげな表情や拗ねたような表情。隼人の手を力強く握る感触…

もう、戻らない。

瑠奈との思い出を作ることは、もう出来ない…

夢の中でしか、瑠奈と接することが出来ない…

「瑠奈…こんなお兄ちゃんで…ごめんな…もっと…瑠奈と過ごした日々を…大切にすべきだったね…」

涙だらけの顔で、隼人は瑠奈の頬を撫でた。

そこは、冷たかった。

その事実を知っていてもなお、寂しく辛い、「死」の感触…

隼人は、瑠奈の冷たい頬に口づけした。昨日、瑠奈がそうしてくれたように…

「大好きだよ…瑠奈…こんなお兄ちゃんだけど…これからも見守っててくれよ…」

両親はその様子を部屋の外で見守った。

「隼人は…ずっと瑠奈と一緒だったから…余計に辛いんだろうな…」

「でも…妹思いのいいお兄ちゃんに育ってくれたわね…瑠奈もきっと、天国で喜んでいるわ…」


日常に埋もれた何気ない幸せは…ある日突然、かけがえのないものになる…そう、愛する者に、もう2度と会えなくなってしまった、その日に…



続く



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 デフレーター 」さんの小説

もっと見る

ノンジャンルの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ