隼人は瑠奈の顔を見た。
本当にただ眠っているだけのようだ…いつも通りの、可愛らしい顔。
隼人は微笑みながら瑠奈に話しかけた。
「瑠奈…いつまで寝てるんだよ。遅刻するぞ…」
生前、そうしてきたように、隼人は瑠奈を起こそうとした。
「今日から新学期だろ…早く起きろよ…瑠奈…」
隼人の目には涙が浮かんでいる。
「全くねぼすけなんだから…起きろよ…瑠奈…なあ…起きてくれよ…!」
隼人の目は、込み上げて来るものを堪えきれなかった。大粒の涙が流れる。
「なあ…目を覚ましてくれよ!…起きて…『お兄ちゃんおはよう』って言ってくれよ…!瑠奈…!」
隼人は声をあげて泣いた。涙が溢れるに任せて泣きじゃくった。
もう決して応えない、瑠奈の体を揺さぶりながら。
「これから…もっとたくさん思い出作っていこうと思ってたのに…瑠奈のこと、ずっと大事にしようって誓ったのに…なんで先にいっちゃうんだよ!!」
瑠奈との様々な思い出が、走馬灯のように隼人の頭を巡った。
瑠奈の一番の魅力である笑顔。「お兄ちゃん、遊ぼう」そう言って甘える声。時々見せる寂しげな表情や拗ねたような表情。隼人の手を力強く握る感触…
もう、戻らない。
瑠奈との思い出を作ることは、もう出来ない…
夢の中でしか、瑠奈と接することが出来ない…
「瑠奈…こんなお兄ちゃんで…ごめんな…もっと…瑠奈と過ごした日々を…大切にすべきだったね…」
涙だらけの顔で、隼人は瑠奈の頬を撫でた。
そこは、冷たかった。
その事実を知っていてもなお、寂しく辛い、「死」の感触…
隼人は、瑠奈の冷たい頬に口づけした。昨日、瑠奈がそうしてくれたように…
「大好きだよ…瑠奈…こんなお兄ちゃんだけど…これからも見守っててくれよ…」
両親はその様子を部屋の外で見守った。
「隼人は…ずっと瑠奈と一緒だったから…余計に辛いんだろうな…」
「でも…妹思いのいいお兄ちゃんに育ってくれたわね…瑠奈もきっと、天国で喜んでいるわ…」
日常に埋もれた何気ない幸せは…ある日突然、かけがえのないものになる…そう、愛する者に、もう2度と会えなくなってしまった、その日に…
続く