「鹿島さんは勘違いをしているわ。
私はゲームに参加したのではなくて、ただ財産を放棄しただけなのよ」
「おっしゃっている意味が、分かりませんが?」
「私は最初から財産を貰うつもりはなかったの。
今のままでいいの。
だからもし財産を四等分すると言っても、私はやっぱり放棄したわ」
そこへ明彦、深雪、そして喜久雄と友子の順に食堂に帰ってきた。
皆、無言のまま席に着くと、目の前に置かれた書類を読み始めた。
「おい、弁護士さん」
明彦が顔も上げずに言う。
「俺達にサインさせておいて、何かよからぬ事を考えているんじゃないだろうな?」
「私が…
ですか?」
「ここに全員がサインを済ましちまうと、少なくともその時点で、全員が財産を放棄した形になっちまう。
それを利用して金をせしめようとか…」
「なるほど。
明彦様が疑心暗鬼になられる気持ちも分かります。
しかし、私はこの財産を相続する権利も、そして手段もないのですよ。
勿論そんな気もありませんが」
「こっそり着服するかも」
深雪が言う。
鹿島がそれに答えるように笑った。
「着服ですか…
なるほど。
どこまでも疑い深いですね。
しかしいくら財産を管理していると言っても、その財産を着服する事など、事実上不可能なのですよ。
そういう仕組みになっているのです」
沈黙が続いた。
誰もが頭の中で、この鹿島という男の事を考えていた。
「仕方がない。
今はあなたの事を、信用するしかないようですね」
喜久雄が言い、サインを始めた。
「信用していただいて光栄ですね」
明彦、深雪もサインを終えた。
鹿島は集めた三枚の書類に目を通す。
「確かにお預かりいたします。
雅則様の言葉を借りれば、皆様は全員ゲームに参加する事になったわけです。
では、さっそく続きのビデオを持ってまいりましょう」
彼はそう言い残すと、食堂を出ていった。
五人のプレイヤー達は、鹿島が出ていったドアを見ていた。
そこには、雅則の金属製の笑い顔が揺れていた。