子供のセカイ。179

アンヌ  2010-06-28投稿
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正直、二人は内心戸惑っていた。ハント達の立ち位置がまったくもって掴めない。彼らは一体何を考えているのか。治安部隊は果たして敵か、それとも味方なのか。
しかしハントは、そんな王子とジーナに対し、結局何も告げることはなかった。
「そこにいる奴らの管理は、ルキ、お前に任せる。」
「わかった。」
「じゃあな。……行ってくる。」
そしてハントは、裸足の足にぐぐっと力を込めて大地を踏みつけると、次の瞬間、ドッという重い衝撃音を残して空高く飛び跳ねた。
王子とジーナ、そこに居並ぶ治安部隊の若者達の頭上を遥かに飛び越え、ハントは強制労働施設の平らなコンクリートの屋根の上に降り立った。
そのまま敷地の外へ飛び出すと、民家の屋根から屋根へと飛び移り、ハントはコルニア城へ向かっていった。その姿はさながら黒い獣のようで、朝の眩しい光の中を跳ねながら、だんだん小さくなって消えていく。
いっそ清々しいほどの身体能力に、思わず目をすがめて彼を見送っていた王子は、急に縛られた腕を引っ張られることで現実に引き戻された。
ルキだった。ちらりと王子に視線をやった後、無言で王子の腕を引き、強制労働施設の方へ連れていこうとする。王子は疲れた体でふらふらしながらもそれに従い、後ろから別の若者に同じようにされながら、ジーナが続いた。その周りを残りの若者達が囲み、一行は冷たい灰色の建物群に向かって進んでいった。
昨夜ここに連れてこられた時には、夜闇に包まれていたせいで建物の姿はよく見えなかった。今はそれがはっきりと見え、その数の意外な多さに、王子は目を丸くした。
強制労働施設は合計六つの建物群から成っていた。五つの建物は扇状に並び、一つの建物は扇の描く半円の外に置かれている。どの建物も同じ形で、灰色で四角く、巨大な箱が置かれているかのようだった。中庭はちょうど両者の中間に横たわり、地下牢もまた中庭に作られていた。王子とジーナは、扇状に並ぶ五つのキューブの内、一番左寄りの建物に連行された。
しん、と静かな石造りの建物の中に足を踏み入れた途端、か細い動物の鳴き声が狭い通路に響き渡った。
「あ!」
王子はそちらを見て、思わず声を上げた。
玄関ホールの端の暗がりに、巨体をねじ込むようにして茶色い毛並みの猫が丸まっていた。金色の瞳は、王子を見つけた喜びからか、爛々と輝いている。



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