ベンチにもどる石塚は、今一度グランドに視線をむけた。
軽快にボールを回す橘華ナインの中、笑顔の八雲は誇らしげに仲間達を眺めていた。
いいチームだと、石塚は感じていた。
打力には課題があるものの、守備力だけをみればかなりのレベルである。
なにより橘華ナインは、野球を楽しんでプレーしている。
あるいは、この地区で難攻不落となった成覧の牙城を崩せるのは、このチームではないかとも、彼は考えていた。
士気のあがる橘華ナインの中、一抹の不安を抱えた哲哉だけがうかぬ顔をしていた。
石塚から三振を奪えなかった事実が、対成覧戦に暗い影をおとしていたのだ。
石塚は打者として一流であり、成覧に入学していたとしてもレギュラーになれていただろう。
だが、クリーンナップを任されたかどうか。
その石塚から三振を奪えなかった以上、成覧打線から三振は簡単には奪えないだろう。
元々八雲の球威がある球は、三振をとるよりも打たせてとる戦術にむいていた。
この試合においても、初回こそ三者三振を奪ったものの、二回以降は全て打ち取っていた。
アウトが取れるのならばそれで善しとも考えたが、一点を争う接戦になれば三振が必要な場面が訪れるはず。
成覧戦はそういう試合になると、哲哉は予測していた。