「どうして兄貴が自分の物を取るんだ?」
喜久雄が言った。
「過去に訪れた客かなんかが取ったと考えるほうが、自然なんじゃないか?
高価なチェスセットなんだろ」
「それはないわよ。
だって、これはセットだから価値があるんであって、白のクイーンだけを取っても、たいした意味はないわ。
それに、この陳列台だけはガッチリ鍵が掛かってるし。
簡単には取れないわよ。
だからこれは、雅則兄さんが意識的に持ち出したんじゃないかしら」
「いったい、何のために?」
「そうね…
たとえば、宝探しのために」
一同がはっとした。
「私はこのクイーンも、宝を探すキーのひとつになるような気がするな」
孝子はたいした興味もなさそうに、ポツリと言った。
ゲームコレクションを収めた六部屋を見て回った五人は、雷音寺雅則という男の変人ぶりを、改めて思い知らされた気がした。
そしてもうひとつ、彼の変人ぶりを裏付けるものがあった。
この三階の六部屋の全てのドアの内側に、あの黒い金属製の笑い顔が掛かっていたのだ。