第19ログ―再会―\r
それにしても。
縄網切助の記憶が消えているのは一体どこまでなのだろうか。
その答えは零太の左手…に宿るランザによって明かされた。
―彼は元々零太殿に敵意を抱いてなかった様なので、利用させて貰う事にしました♪とりあえずはこの修行の内容諸々と、貴方が戦ってるということは覚えてて貰いましたよ。実戦的な役にはさすがに立たないでしょうけど、喧嘩に関しては鍛えればずっと強くなると思いますし―\r
「…つくづく器用なことしやがるなお前は…」
「ん?何、先パイ?ああそうか、左手にデジログ使いが…」
こんなことまで覚えてんのかよ。根っから利用する気だなこの性悪魔術師…
あんまり酷く言ってまた左手を複雑骨折させられる(経験済み)のも嫌なので、とりあえずそこらでやめて置いた。
「いいか?絶対人に言うんじゃねぇぞ。こんな通路のど真ん中で大声で叫びやがって…」
「うんうん、わかってるよ。先パイも心配性だね♪」
これを見て心配にならないほうがおかしい。
ランザは満足そうに左手をぶらつかせているが、まずこの人種には心配という二文字が辞書に載って無いのではないかとこちらが心配になる。
丁度その時だった。
一瞬の内にざわついていたクラスが沈黙で割れる。この沈黙は、苦しみでも卑しみでも悲しみでも哀しみでもなく、恐怖、畏怖だった。
目の前の存在への。
「珍しく騒動が起きたと思ったら…またお前。世話のやける奴」
黒く長い、もし女性ならこれこそ日本人とかなんとか言われるような髪を持ち、高校生では信じられない威厳と厳格さを持った男が、そこにはいた。
間違いない。
彼の頭のヘアバンドはもう目印だのという問題でなく、縮緬問屋の面をかぶったどこかの徳川家将軍の印籠と同じ意味を持つ。そこに存在するだけで頭が下がる、それが彼。
風紀委員、
栄雅 栽流(ヨシガサイル)。
「赤岸零太…
君は前から僕達のリストに載っている重要危険人物なんだが…
少しは気を引き締めようとか思わないのか。」
「知るか。俺が俺のやりたいようにして何が悪い。第一、これはここの一年がやったんだぜ」
「どもっス、先パイ」
硬直する半径10m内で三人のみが喋る。
切助は性格上ともかく、零太がこうも冷気の中で栽流に向かって堂々と喋るのには訳があった。
永遠の腐れ縁。
その一言で彼等を現すのに充分、いや最も相応しい。