「武司。コイツちょっとかりてくぞ」そう言うと、俺の腕を掴んで引っ張っていった。
グラウンドから少し離れた草原に着き、先輩が話し始めた。
「マウンドから投げてないんだってな」
武司が何か言ったのかと光は武司の顔を思い浮べて睨んだ。
「どうしたんだよ?まだ責任感じてんのか?」
「皆・・・睨んでました。最後のミーティングの直前、僕が謝った時です」
「・・・・・」
「みんな口に出さないだけで・・・本当は」
「そうかも知れないな」
「・・・・・」
何も言えなかった。肯定されたら謝るしかなくなる。
「・・・・喋るなって口止めされてたんだけどな」少しの沈黙を破ったのは真野先輩だ。
「何人かに相談されたんだよ。お前に謝りたいって」 「なっ・・・・なんで・・・」
「お前が悪くないのは分かってる。けど、睨んでた・・・睨んじゃったって」
「・・・・・・」また沈黙が続く。沈黙の原因は光だった。真野先輩が何を言っても返事を返せない。何も考えられなかった。
それでも先輩は話し続ける。「いい加減、ミットに向かって投げろ」と。
頭の中は真っ白になって、散らかってた物は無くなっていた。
そして、
何もないそこへ―――\r
━━ミットに向かって━━
言葉が駆け込んできた。
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シュッ―バシッ
シュッ―バシッ
シュッ―バシッ。
翌日から、ブルペンでは規則正しい音が響いてきていた。
まるで、ステップをふんでるような軽快な音は、新たな夏の始まりを予感していた。
━━━シュッ――バシンッ━━━
完