「最後に雅則様の自室をご案内いたします。
と言いましても、この部屋には、私も入った事はありませんが」
鹿島が廊下の突き当たりのドアを開けた。
入るとすぐにリビングルームになっていた。
左にはホームバーがあり、やはり洋酒が並んでいる。
そしてソファー、テレビ、ビデオと、そのほとんどは各人が割り当てられた二階の部屋とたいした変わりはなかった。
ただ、この部屋には左右にドアが一枚づつある。
それともうひとつ、入り口のドアから向かって正面に、大きな深緑の厚手のカーテンが掛かっている。
その大きさから判断して、どうやらその先はベランダになっているらしい。
そして、勿論この部屋の入り口のドアの内側にも、例の笑い顔が下がっていた。
「左のドアは書斎へ、そして右のドアはベッドルームに続いています。
どうぞご自由にご見学ください。
庭につきましては、特に案内の必要はないでしょう。
明日にでも散歩なさってみてください。
さて、これで雅則様の言葉を借りれば、ゲーム盤の全てを案内した事になります。
私は下の食堂に行っています。
何か質問がありましたら、そちらへお越しください。
では」
鹿島はそう言い残して部屋を出て行った。
とりあえず書斎のドアを開けてみる。
右には窓、正面には卓上ワープロの乗った机と椅子、中央にロッキングチェア、そして左壁に本棚。
その本棚にもゲームの関係書が並んでいる。
ほとんどがチェスの本で、入門書から専門書、洋書などのようだ。
明彦が机の引き出しを次々と開けた。
「全部空っぽだ。
あるのはワープロに使う紙とリボンしかない」
「たつ鳥、後を濁さずね」
友子がロッキングチェアを手で揺らしながら言った。
ベッドルームとそれに続くバスルームには、これといった物はなかった。
リビングルームに戻ると、孝子がカーテンを引き開けた。
「やっぱりベランダだったんだ」
そう言ってガラス戸を開け、ベランダに出た。
他の者も彼女に続いた。
冷たい夜気がひんやりと気持ちがいい。
空は満天の星だ。
幅の広いベランダで、野外用のテーブルと椅子がある。
その椅子のひとつに深雪が座り、煙草に火を着けた。
孝子と友子はベランダの柵に寄りかかって、大自然のプラネタリウムを見上げている。