『山本くん、ついにジョッキーになったわけだけど、目標をきかせてもらえるかな?』
記者の質問が修にとんだ。
『当然、父を超えることです。』
記者の質問が集中する。
『お父さんは平成最初の名ジョッキーと呼ばれたけど、修くん的にはやっぱり尊敬はしてるよね?』
『…尊敬とかそういうものは無いです。逃げてしか勝てないジョッキーなので超えるのは簡単かなと。』
会見場が一瞬、静けさに包まれたが、それでも会見終了まで修にだけ質問が続いた。
新人ジョッキーの会見なんてそんなもの。とにかく話題性のある二世ジョッキーに質問が集中する。
修の父は通算三千勝、リーディングジョッキー26回、キングジョージ制覇など輝かしい実績を残して5年前に引退し、現在は調教師として活躍する山本誠二だ。
毎年数人の新人がデビューするジョッキーの世界。しかしその中で年間百勝、G1制覇など一流のジョッキーになるのはせいぜいひとりかふたり。そんな世界でいきなりこのハンデはでかい。
しかも修は実力もある。その事は競馬学校時代にいやというほど見てきた。
でも、負けられない。もう負けたくない。絶対に…