ジーナは低い声で言った。
「……覇王がどんな計画を企んでいるか、今日になればわかると言っていたな。お前達、この場所で何をやらされている?これから私達に何をさせる気だ!?」
「百聞は一見に如かずって言葉があんだろ?」
ここに来るまで真面目くさった態度を貫いていたルキは、急にいつもの調子を取り戻したように、砕けた様子で肩をすくめた。
「つまり、やってみりゃわかるってことだ。――おい、ボールを持ってる奴はどこにいる?」
「あー、オレオレ!二十個しかねぇけど!」
勢いよく挙手した青年が他の若者達を掻き分け、前へ出てきた。
青年はひょろりと背が高く、存外ほっそりした手足をしていた。それに垂れ目で、表情豊かな顔を綻ばせていて、仏頂面で腕を組んでいるユジユとは対照的だ。
青年は手に鉄の箱を抱えていた。蓋はぴっちりと閉まっている。
それを見て、ルキはどこかうんざりしたように溜め息を吐いた。
「サク、テメェ何でもっと入れてこなかったんだ?二十じゃすぐに終わんだろうが。」
「だってこいつら初めてだろ?それに貧弱王子は使えそうにないしー、こんくらいが調度いいんじゃね?」
サク、という名前らしい青年は、そう言ってへらりと笑った。貧弱と言われた王子は、当然抗議の声を上げようとしたが、ジーナが肩に手を置いたことで口をつぐんだ。
ジーナはルキを底冷えのするような瞳で見下ろしていた。その表情に張り詰めたものを見出だし、王子は眉をひそめる。
「そのボールと仕事と、何の関係がある?」
「大有りだ。これがなきゃ、そもそも仕事にならねぇ。」
ルキはサクから乱暴に箱を奪うと、ジーナに放ってよこした。ジーナは大して重くもないそれを、なんなく受け止めた。
「仕事は単純。そいつを使って、とにかく前へ進め。しっかり仕事しろよテメェら。全部使い果たすまで扉から出さねえからな。」
そしてルキは、ユジユとサクに合図し、両開きの鉄の門扉の両脇に立たせた。二人は輪の形をした取っ手を掴むと、力任せにぐいっと引っ張った。
ギギギギギ……。耳を塞ぎたくなるような金属音が鼓膜をつんざく。何トンあるのだろうと思われるほど、鉄の扉は重厚だった。開いてゆく扉の隙間から、さあっと輝く青い光が漏れ、石の床を一直線に走った。その延長にいた王子とジーナと猫の半身が、燃え立つような濃い青色に染め上げられる。