ぷぴょ太は、深夜から長い行列に加わり、朝7時の開店と同時に、限定発売のアイドルDVDを手に入れた。
「あー、嬉しいなー。苦労して手に入れたんだから1000回以上は見なきゃ!」
スキップをしながら、ぷぴょ太は自宅に戻った。
「よーし、さっそく!」
感激のあまり、スキップが止まらなくなった事も気にせず、ぷぴょ太は靴をはいたまま、テレビに向かってリモコンの再生ボタンを押す。
「…こちらの世界が、たいへんな事になっておるのじゃ!」
40インチの液晶テレビに映ったのは、美少女アイドルではなく、西洋風のコスプレをしたオッサンだった。「あれ? 『マー娘。』は?」
スキップをしながら、ぷぴょ太は顔を引きつらせた。『マー娘。』とは、ぷぴょ太が愛するアイドルグループ『マーダラー娘。』の略称である。
「まーむす? そんなものはどうでもいい。それよりも、勇者ぷぴょ太よ。こちらの世界の命運は、おまえに」
「ボクの『マー娘。』を返せよう!」
テレビ画面に映っているオッサンの言葉をさえぎって、ぷぴょ太が叫んだ。
「…何を言っているのだ、勇者ぷぴょ太よ。早くしないと、世界が滅びてしま」
「うるさい、うるさい! ボクの『めっち』や『クゴちゃん』の笑顔を返せ! 返してくれよう!」
いまだ止まらないスキップをしながら、ぷぴょ太が顔を真っ赤にして怒り狂う。
「う、うむ。勇者ぷぴょ太よ。せっかく買ったDVDの映像を消してしまったことは謝ろう。しかし、こうでもしなければ、おぬしと接触できなかったのだ」
画面の中のオッサンが、頭を下げる。
「あ、あああ謝って済む問題じゃないぞ! ボクがどんなにメッチやクゴちゃんを愛しているか、あんた知らないだろ! たとえるなら、地球を救えるくらいの愛だぞ! すごいんだぞ! きぃーっ」
目を真っ赤に腫らしながら、ぷぴょ太が奇声を発する。
「あ、こいつ泣いてる…えーと、もちろん弁償する。まーむすとやらのDVDは、いくらで…」
「このDVDは初回限定盤なんだぞう! もう一生手に入らないんだぞう! 返せ、ボクの『メッチ』や『クゴちゃん』の初回限定ウキウキ特典映像を返せよう!」
涙を流しながら鼻水を垂らし続けるぷぴょ太を見て、もはや手がつけられないと思ったのか、オッサンは液晶テレビの画面から姿を消した。
当然、あちらの世界は滅びた。