それから少し歩くと、彼の予想通り、そこにはさらさらと、川の流れがあった。
「少し、休憩にしよう」
と、アルファが言い終えるや否や、私は膝から崩れ落ちた。
「食料を探して来るから、見張っておいてくれ」
とだけ言うと、彼はすたすたと川の石を渡って行ってしまった。
私はゆっくりと、川に近づいていった。
少しだけ、水に触った。
「冷たいっ!」
そのまんまのリアクションだ。
川はどんよりとした曇り空をそれに映し、なんだか冴えない眺めだった。
さてと、私も真面目に見張ろうかな、と立ち上がってみた。
まあ、待てど暮らせど誰も来ない。
もしかして、警察も大した事ないの?
そう言えば、アルファはどうして追われているのだろう、と私は思った。
まさか彼が…
いや、違う。だったら、自分が不利になるだけの現場検証を自ら申し出る筈がない。
足音。
私は勢いよく振り向いた。
ジャンパーの赤い袖が一瞬見えたが、それまでだった。視界が、ぐらりと傾いていった。
パチパチと可愛らしい音がする。
ふと横に目をやると、
ジャンパーもパーカーも脱いでタンクトップ姿の…しかもずぶ濡れのアルファが、そこにいた。
いつの間にやら作った焚き火に、寒そうに手をかざしている。
「落ちたの?」
「一応、お陰様で…だな」
さっき、私が川に落ちそうだったのを、彼は助けようとして飛び込んだ。
…のに、私は川には落ちず、無駄だったという訳だ。
「そうだったんだ…」
アルファの迂闊さを知り、私は何となくほっとした。
彼は微かに震える手で、飛び込む前に脱いでおいたらしいジャンパーを羽織った。
余りに寒そうで見ていられず、私は彼の腕をぎゅっと抱き締めた。
「これで、ちょっとは暖かい?」
彼の顔に、赤みがさしてきた。けれど、依然として彼は、震えていた。
風邪なんか引かないでね、と、私はもっと、強く抱き締めた。
異様に冷たい肌に触れていて、私は、いつの間にか眠ってしまっていた。
逃亡中なのに、信じられないほど安心しきっている私がいた。
第二章 『眠り』(予定)に続く