夜だというのに空気は暑く、日射しにも匹敵する熱風が身体を撫でる。
その日、親父の墓参りを終えた僕が屋台で飲んでいると、一人の男が隣に座った。
細身の体躯の神経質そうな男だった。
暫く黙って飲んでいると、男が話しかけてきた。
最初は聞き流そうと思っていたものの、酒の勢いも手伝って数分後にはすっかり意気投合してしまった。
話題がお互いの仕事、家族、そして故郷の話になった時、男は薄い笑みを浮かべながらポツポツと話し始めた…。
あれは小学生の時分でしたか。
私は港町の生まれでしてね、小さな頃から海と一緒に暮らしてきたんですよ。
祖父も親父も、知り合いの兄さん達も皆漁師でしてね、数人の友達と一緒に船の使い方やらなんやらをみっちり教わったものです。
私の故郷では妙な習わしがありましてね。
すぐ近くに、小さな島があるんですが…近づいてはいけないと言われていたのです。
親父を始めとする漁師達ですら、決して其処に行こうとしない…。
不思議に思って親父に聞いてみたんですが、首を振るばっかりで何も教えてくれない。
他の漁師達もみんな同じでした。
私はどうしても気になってしょうがなかった。
そこで、数人の友達で話し合って島に行ってみる事にしたんですよ。
朝早くに集まって、親父達に見つからないように小舟を借りてこっそりと…。
勿論、親父達には内緒です。
後ろめたい気持ちもありましたが、『冒険するんだ』という子供染みた欲求には勝てません。
その日は天気も良く、波も良好で船はスイスイ進みました。
胸に期待とちょっとしたスリルを感じながら、私達はその島に上陸したのです。
《続》