開けたくない。
けど、僕の指は襖に掛けられていた。
ゆっくり、和室の物置部屋を開けていく。
開けた途端、ぬるま湯が僕の裸足の足を浸した。
黄ばんだタイル張りの浴室があった。
和室のはずのこの部屋はあるはずのない風呂場になっていた。
そして。
浴室の小さな浴槽に、女が立っていた。
全身ずぶ濡れていて、もつれた髪が乳房を隠している青黒い全裸の身体から、腐った匂いが漂う。
身体中に切り傷があり、真っ黒い血液が流れている。
逃げなくては。
僕が一歩、後退るその瞬間女は俯いていた顔をあげた
見開かれた目の中心は黄色く濁り、白目からぬるりとした体液が涙のように溢れた。
鼻は腐り、陥没している。
唇の肉が押し広げられ、僕に呟いた。
「ヒキ、ずられ…ちゃったの」
ひきずら…なんだって?
人間の声じゃない、低くくぐもった声で女は笑った。
僕はその声で呪縛から逃れアパートから飛び出した。
冷たい汗をかき、アパートを振り返った。
意味不明な言葉を振り捨てるように僕は走った。
アパートに帰らなくて済む方法を、探さなくては…。