欲望という名のゲーム?46

矢口 沙緒  2010-07-10投稿
閲覧数[383] 良い投票[0] 悪い投票[0]




「それでね、
『おっ、なかなかいい部屋じゃないか』
とか言って、入って来ちゃうし。
私、人を呼ぼうかと思ったりして。
…でもね、話しているうちに、本当の雅則兄さんだって事が分かって。
それでね、
『突然どうしたんですか?』
って聞いたらね、
『一緒にチェスをしようかと思ってね』
だって。
呆れたわよ、私。
雅則兄さんが変人だとは聞いてたけど、まさかこれ程とは思わなかった。
兄さんはニコニコしちゃって、
『どうだ、やらないか?』
って。
私、その頃はまだチェスを知らなかったから断ったの。
そしたらね、しばらく困った顔をして考え込んでいたけど、
『じゃ、こういうのはどうかな?』
って言って、即興でおかしなゲームを作ったの。
チェスのポーン以外の大駒だけを使ってやるんだけど、まずチェス盤の真ん中に、紙で作った衝立を置いてね、そして、自分の側の最前列に、横一列にチェスの駒を並べるの。
並べかたは自由で、つまり陣形を作るわけね。
どんなふうに並べたかは、衝立があるから相手には見えないの。
お互いが並べ終わったら、衝立を外す。
これで準備完了。
駒ひとつひとつの動きはチェスと全く同じなんだけど、これで『挟み将棋』をしようってわけ」
「チェスの駒で挟み将棋を
…なるほど」
「ルールは簡単。
相手の駒を半数の四個取るか、あるいは相手のキングを取ったほうが勝ち。
でも普通の挟み将棋と違って駒の動きが複雑だから、これがなかなか難しいのよ。
結局、日が暮れるまでやっちゃって。
最初は兄さんが勝ちっぱなしだったけど、最後に一度だけ私が勝ったの。
その頃には、すっかり兄さんと仲良くなってたわ。
二人で外に食事に行って、そのあとでアイスクリームを食べに行って。
私があのゲームに名前を付けようって言ったら、じゃ挟み将棋に対抗して『ビトゥイン・チェス』っていうのはどうかな?
って。
…楽しかったわ。
兄弟って、こんなにいいものかと思った。
でも、私ってダメね…」



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 矢口 沙緒 」さんの小説

もっと見る

ミステリの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ