入ってきたのはDと同い年くらいのまだ若い男だ。
短い茶髪に赤ブチのメガネ。
見た感じなかなかのインテリだ。
男は部屋に入ると眠っているDに近づき、肩を叩いた。
「起きろ。風邪ひくぞ」
「うわ!」
Dは飛び起き、ゆっくり目の焦点を合わせた。
「渉か…」
「お前また携帯小説書いてんの?」
男の名前は平山渉。Dとは中学・高校の同級生で、今でもたまにDの家に遊びにくる。
渉はDの手に握られた携帯の画面を見た。
「何も書いてないじゃん。」
「全然浮かばねぇんだよ…考えまくってたら疲れちまって…」
Dはあくびをしながら大きく伸びをした。
「ふーん…」
「!…お前、どうやって入ってきた?」
Dは今更気づいて慌てる。
「鍵開いてたからさ。」
渉がさらっと言った。Dはまるで泥棒を見るような目で渉を睨み、部屋中を漁り始めた。
「何も盗ってねーよ。」
「鍵開いてたからって勝手に入ってくんなよ。」
「鍵かけときゃいいじゃん。」
「確かに。」
「考え直すの早いな。」
「そんなことより、何しに来たんだ?」
「別に…暇だから来た。」
渉はDのベッドに乗っかってあぐらをかいた。
「そっか。俺、小説行き詰まってっから、邪魔すんなよ。」
「へいへい。」
Dはまた画面を睨んで悩み始めた。
「どうだ?いいの書けそうか?ん?」
渉が楽しげに聞いてくる。
「お前の小説傑作だらけだもんなー。あー楽しみだ。」
「うっさいなー…集中できねぇだろ。」
「ってかさ…今度どういうの書こうとしてんの?」
渉はベッドから立ち上がってDの携帯を覗きこんだ。
渉はDの小説を全て読んでおり、毎回いい評価をしてくれている。
「夏だからホラーでも書こうと思ってんだけどさ…」
「また?」
Dがアイデアに詰まる前の最後の作品がホラーだった。
怖さと非現実性に重点を置いた力作だ。
だがさすがにホラー2本立ては難しかったか。
「お前、こないだの作品でホラーネタ尽きたんじゃん?」
「でも絶対ホラー書きたいんだよ。」
Dの目は真剣そのものだ。
「ネタのあては?」
「ない。」
「そんな自信たっぷりに言うなよ。」
「渉ー…何かない?こう…怖がらせるような何か。」
「んなこと言われてもなー…」
渉はDの無茶振りに頭をかいた
続く