第四章
翻弄という名の序盤戦
四月十七日
朝食には全員が顔を揃えたが、口を開く者は誰一人いなかった。
明彦はトーストとコーヒーを流し込むように口に入れると、そそくさと食堂を出て行った。
少し遅れて、友子が明彦の後を追うかのように食堂を出た。
喜久雄は眠そうにあくびばかりしている。
そんな喜久雄を、深雪は気に入らなそうに見ていた。
しばらくして、友子が帰ってきた。
そして喜久雄と何やら小声で相談している。
「友子さん!
明彦兄さんはどこへ行ったのよ?」
深雪がきつい口調で言った。
「えっ?」
友子がびっくりして深雪を見る。
「とぼけちゃって。
あんた達やり方が汚いわよ。
人の見張りばっかりして。
横取りする気なんでしょ」
友子が何か言いかけたが、喜久雄が先に口を開いた。
「どんなやり方をしようと僕達の勝手だ。
いちいち非難される覚えはない。
最終的に相続権を得た者が勝ち、あとの者は負ける。
それだけだ。
結果が全てだ。
手段なんか選んじゃいられない。
人を見張ろうが、横取りしようが、そんな事問題じゃない。
どんな方法を取ろうと、とにかく勝つ事が重要なんだ」
「そして、生きて無事ここを出ること」
黙って聞いていた孝子が、そう付け加えた。
明彦は再びボードゲームの部屋にいた。
しかし、今日は目的が少し違う。
彼はボードゲームには目もくれず、棚の端の方に積んである麻雀牌の所へ向かった。
彼は朝食を食べている時に、ある事が閃いた。
もしかしたら、あのパブロという三毛猫の『三毛』は、三色を暗示しているのではないか?
そう考えると、三色でゲームに関係のあるものがひとつ浮かんだ。
麻雀の役で『三色同順』、通称『三色』と呼ばれている役だ。
麻雀牌を入れてある、小さな手提げバッグのような物が、二十個ほど積んである。
彼はそのひとつを取り、そして開けた。
牌は全て裏返しにしてあった。
そのひとつを摘まむ。
象牙の牌で、背は竹、しかも彫りも見事な物である。
中央の入れ物に入れてある点棒も、そしてサイコロまでもが象牙で出来ている。
この麻雀牌のセットを買おうとするなら、二百万はくだらないだろう。