叔父さんの顔はよく覚えていない。
「泣くのはおよしなさい」
そう言って、やさしく笑った。
「金魚に罪はないよ」
そう言って、また優しく笑った。
私もつられて涙を流したまま頷いた。
「きっと彼だってそんなことは望んでいないよ」そう言ってもう一度帽子で顔を隠した。
私は、驚いて叔父さんを見た。叔父さんは何も言わずに何かを袋に入れていた。
「何のことですか?」
私は、できるだけ驚いていないフリをして尋ねた。叔父さんはもう一度優しい目のまま言った。
「七色の金魚の噂を知っているかい?」
「お昼に友達に聞きましたけど」
「なら話は早い。あなたにこの金魚をお貸ししましょう」
そう言って私の目の前に小さなビニール袋を差し出した。その中には確かに半透明の七色の金魚が泳いでいた。
私は恐る恐るその袋に入った七色の金魚を受け取った。
「これ‥どうやってお返しすれば」
そう聞こうと思って顔を上げた時には、もう叔父さんも屋台もなくなっていた。
というよりも初めからここに存在していなかったようだった。
私は大きな木に向かい一人立っていた、ただ右手には確かに七色の金魚が窮屈そうに泳いだいた。
とりあえず金魚鉢を買って帰ろうと思った。
なぜかこの金魚を飼うことにためらいとか恐怖じみたものはなかった。
ただ、なぜか落ち着いた心でいた。