悪夢のクビ騒動から一夜明けた。昨日は一転して奇跡の無償トレードという形で現役続行が叶った勝利ではあったが、一夜明けて冷静になったのか、少し不安も感じるようになった。
他球団で現役続行できるようになっても、またクビになるかもしれない。どんなに頑張ってもダメな時はダメだからだ。
そしてもう一つ勝利が気になっていた事は長崎ウイングスが捕手を欲した事だった。
というのも、長崎ウイングスにはKリーグを代表する不動の正捕手、石嶺裕(いしみね・ゆう)がいるからであった。
石嶺は近年弱小と言われているウイングスの唯一のスター選手として君臨。走攻守三拍子揃った野球センスは天性のものである。
そんな絶対的な正捕手がいる長崎ウイングスが何故、戦力外寸前だった勝利を獲得したのか?
謎は深まるばかりである。
勝利は納得できないような複雑な気持ちで寮の自分の部屋からロビーの方に行きスポーツ新聞を見る。
スポーツ新聞には三面の端っこに小さく「ブラックキングス完風、ウイングスへ無償トレード」と書かれていた。
プロになってからは一度もスポーツ新聞に縁がなかった勝利だったが、こんな形で初めて新聞に載ったのである。
当の本人は複雑な表情を思い浮かべるが…
すると、新聞を読む勝利の後ろから
「よぉ、お前にウイングス移籍なんだって?」
聞きなじみの声が聞こえた。