ユキエを職場まで送り届けた後、帰宅すると、
リョウは、すでに学校へ行ったらしく、ユウは、リビングのソファ―に座り、
テレビを見ていた。
『ユウ。昨日の傷は傷むか!?』
当たり前だろうが、本日初の親子の会話は、やはりここから始まる。
『うん。昨日より腫れてる気がする。
それより親父、母さんと学校へ行って何を話して来たの!?』
必ず聞かれるとは思っていた。
ユウ自身、昨日の俺とユキエの会話の内容から、おおよその見当はついているはずだ。
『お前の担任の本橋とクラスメイト全員に会って来た。』
『…………。』
ユウは、俺の顔をマジマジと見つめ、何か言いたげな表情をして見せたが、
次に口を開いたのは、俺の方が先だった。
『母さんがな‥‥あのおとなしい母さんが、お前のクラスメイト全員の前で話したんだ。
内容は、お前があのクラスの連中からイジメを受けている事についてを、
ストレートに述べるものではなく、間接的に話してはいたが、
あのクラス全体がイジメの当事者であると知った以上、
母さんが話した事は間違いではないと思っている。
あのクラスの連中がバカでない限り、俺達が、あの場を借りてまでして、
何を言いたかったのかという事は、理解出来ると思う。』
ユキエが言わなくても俺が言っていた。
その時点で、少なくとも俺達夫婦は、意見が一致していた。
『‥‥マジかよ‥‥‥。俺、もう学校行けね―よ‥‥‥。』
『ユウ。
父さんと母さんが今日、学校へ行った事によって、
お前が学校へ行きにくくなったという事については、
申し訳ないと思っているが、
お前の親として、父さんも母さんも、どんな事をしてでもお前を守る。
それだけの覚悟をしてとった行動だという事は分かってほしい。』
一言つぶやくように、ユウが漏らした言葉に対し、
俺が返した言葉は、おそらく、昨日までの俺とは違うものになっていただろう。
あからさまに否定をするだけの。
子供にとっては、はた迷惑な言葉とは違うものに。