『言いたい事は分かってるよ。
でもやっぱ行きにくいじゃん。』
ユウのシュンとした表情を見ると可哀想だと思ったが、
親として、ここはどんと構えるべきだろう。
『あの本橋という男は、なかなかのクセ者だ。
ユウ、気をつけろ。
それと、あのクラスは何かがおかしい。
父さんは、そう感じたな。』
『父さんすげぇ。
昨日の“鼻くそボール”もすげぇと思ったけどさ。
あのクラスは本橋のおもちゃさ。
操り人形だよ。』
『操り人形?!』
『みんな、本橋の催眠術にかかっているようなものさ。
受験生は、内申書にヘタな事書かれたくないからね。』
『あぁ。そういう事か。
ところでユウ。
もうすぐ昼だし、腹減らないか?』
『別に‥‥‥。』
『まぁそう言うな。
父さん特製パスタ美味いぞ!!』
イジメ問題は難しい。
しかも、人生で最も多感なこの時期だ。
ユウが卒業するまで、まだまだ時間がある。
そして、おそらくは、それまで続いていくであろうこの問題に、
立ち向かって行くだけの気力も俺には十分ある。
無いのは就職口と金のみだ。
ある意味、怖いもの無しの今の状況。
開き直ったら案外強いのが俺。
『飯食い終わったら、母さんのママチャリを取りに行きがてら、ボーリングしてくか?』
『行かね―よッッ!!
親父一人で行って来いよ!!』
パスタをほおばるユウの顔が、
最近ますます自分に似てきたようで、
何だかよく分からないが、いい方向に向かってくれる事を願っている俺だった。