「ねぇねぇ、ちょっと起きてよ」
友子が寝入ったばかりの喜久雄を起こした。
喜久雄は昨夜一晩中見張りをしていて、ついさっき寝たばかりだった。
「なんだよ、うるさいなぁ」
「ちょっと大変よ!
明彦さんが、何か見つけたらしいわよ」
「な、なんだって!」
喜久雄は飛び起きた。
深雪は部屋で見取り図と、にらめっこをしていた。
図のあちこちにX印が書き込んである。
例の雅則の金属製の笑い顔のある位置だ。
彼女はこれにも、何らかの意味があると睨んでいた。
ただの飾りにしては、あまりにも不自然過ぎる。
この屋敷の調度類は、それなりに洗練された物ばかりだ。
ただ、あれだけが全体のバランスを崩している。
それに鹿島から聞いた話によると、これを取り付けた時期と、この宝探しを計画した時期は、ほぼ一致する。
これは絶対に何かある
…でも、何が?
それが分からずに、深雪は頭を捻っていた。
バタン!
と隣の部屋のドアが閉まる大きな音がした。
深雪がドアを開けて部屋から顔を出すと、喜久雄と友子が、慌てて廊下を走っている。
「ねぇ、何事なの?」
深雪が友子の後ろ姿に声をかけると、
「大変よ、明彦さんが何か見つけたのよ」
そう言い残して、友子はまた喜久雄の後を追った。
深雪も慌てて続いた。
三人がホールに降り立った時、双眼鏡を手に持った鹿島が、ちょうど表に出ようとしているところだった。
「ねぇ、鹿島さん。
何よその双眼鏡は?」
深雪が聞く。
「ああ、これですか?
これは雅則様がバードウォッチングに使われていました物で…」
「そんな事、聞いちゃいないわよ!
何に使うのかって聞いてるのよ!」
イライラした様子で、深雪が言う。
「明彦様がお使いになるそうです。
何に使うかまでは分かりませんが」
「明彦兄さん、何か見つけたの?」
「はい、どうもそのようです」
その時、図書室のドアが開いて、孝子が顔を出した。
「ねぇ、みんなで何をバタバタしてるの?」
「孝子さん、大変よ。
明彦さんが手掛かりを掴んだみたいよ」
友子がそう言っても、孝子はたいして興味もなさそうに、
「そう」
とだけ言うと、また図書室に戻ってしまった。
「なんだあいつ、気にならないのか?」
喜久雄が呆れたように言う。
「変わってるのよ、あの子は」
深雪が図書室のドアを見て言った。