思わず二人は、互いに眉を潜めた顔を見合わせた。
「これを使って道を拓くのかな?」
「恐らくそういう意味だと思うが……。そもそも、こんな物騒なものを使わなければならないほど、強固な壁なのか?」
ジーナは膝をついたまま、行き止まりになっている目の前の青い壁を、じっと睨むように見つめた。王子もそれに習う。
どうにも腑に落ちなかった。二人共、胸の奥がざわざわするような不穏を感じていたが、その正体がわからない。なぜこののっぺりとした青い壁に、怯えなければならないのだろうか。
「……ここがどんな所なのか、それがわからなければ、覇王の計画も推測できないな。」
「うん。そして、それを知るためには、やっぱり『労働』をやってみるより他にないね。」
立ち上がった二人は、少し壁から距離を取った。王子は猫の首紐を引っ張って壁から引き離し、ジーナは慎重な手つきで鉄の箱の中から一つのボールを取り出した。
「触っても大丈夫?」
「ああ。それは問題ないが、危険かもしれないから、もう少し下がっていろ。」
ジーナは残りのボールが入った箱を床の邪魔にならない場所に置くと、片手にボールを、もう片方の手で剣の柄を握った。
ハントは「力のある奴」しか労働ができないような事を仄めかしていた。ということは、労働をするにはそれなりのリスクが伴うに違いない。
王子も早々に剣を抜き、猫の背にもたれ掛かる。体力を消耗しているため、何かあっても対応することなどできないかもしれないが、いざとなれば猫が自分を守ってくれる。我を張っていてもジーナに迷惑をかけるだけなので、王子はせめて自分の身は自分で守らなければと考えていた。
ジーナは一つ大きく深呼吸した。地下のはずなのに意外と空気は澄んでいて、ゆっくりと肺を満たしていく。
「行くぞ。」
「……いいよ。」
背中から返ってきた小さな返事を聞き、心の中で三秒数えてから、ジーナは素早くボールを持った腕を振りかぶった。
パアン!
軽快な音が鳴り響き、ゴム製のボールが青い壁の真ん中に命中して、弾けた。強力なエネルギーがぶわりと湧き出し、青い壁の表面を、煌めく白い光が覆う。
そして。
それが消えるや否や、壁の表面が、ぼこり、と音を立てて大きく盛り上がった。
「!!」
壁から「何か」が分離し、猛烈な勢いで跳ぶように襲いかかってきた。