カチッとスコップが何かに当たった音がした。
明彦はスコップを投げ出すと、今度は両膝をつき、手で掘り出した。
四つん這いになり、必死になって穴を掘る明彦のその姿は、何か浅ましいものを感じさせた。
そして彼はついに土の中から、箱を掘り出した。
ちょうど封筒が収まるくらいの、薄い金属の箱だ。
それをゆっくりと開いた。
その形と大きさからして、当然中には封筒が入っているものと思っていた明彦は、たった一枚の紙しか入っていなかった事に、意外な顔をした。
そしてその紙に書かれていたことを読んだとたん、明彦の形相が変わった。
「ちっくしょう!
ふざけやがって!」
そう怒鳴ると、明彦は箱を土の上に叩きつけた。
その箱の中からヒラリと出てきた紙を読んで、喜久雄と友子、そして深雪の三人は同時に笑い出した。
「いい気味だわ!
雅則兄さんも、やるじゃない」
深雪は、そう悪態をついて、また笑った。
その紙には、こう書いてあった。
『ワンワンは
猫にあらず
犬なり
あしからず』
明彦は憤慨した様子で上着を掴むと、屋敷に帰って行った。
その後を喜久雄達がニヤニヤしながら付いて行く。
残されたのは鹿島と孝子だけだった。
鹿島は仕方なく穴を埋め始めた。
「ひどいわね。
穴を掘りっぱなしで行っちゃうなんて」
孝子が言った。